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2019年7月26日金曜日

ヨッピー『明日クビになっても大丈夫!』は”わかりみ”しかない──クリエイター、フリー志望者必読の書

2017年発売のヨッピーさん『明日クビになっても大丈夫!』(幻冬舎)を今さらながら読んだ。よくヨッピーさんのことを知らない人が持っているであろう彼へのイメージが、いい形で覆される、納得感あふれる、わかりみにあふれる一冊だった。

2017年4月2日日曜日

『夫のちんぽが入らない』はアリでも『妻の●●●に入らない』はあり得ない


少し前に『夫のちんぽが入らない』(こだま著、扶桑社)を読んだ。どういう本かは、あちこちで語られているので紹介はせず、印象に残ったシーンをいくつか挙げたうえで、整理しきれていない、もやもやとした感想や感情について備忘のためにメモしておきたい。

2015年6月30日火曜日

森川亮さんセミナー『シンプルに考える』仕事術をちゅうつねボーナスセミナーで聴いた


「ちゅうつねボーナスセミナー」で、森川亮氏に聞く「シンプルに考える」仕事術という講演を聴いた。森川さんの話を聴いてみたいのと、はあちゅうさん、経沢さんのサロン「ちゅうつねカレッジ」の雰囲気が知りたいのが理由。

2015年5月20日水曜日

はあちゅう『半径5メートルの野望』感想――”当たり前”ができる強さ

はあちゅうと恋チュン


はあちゅうさんの『半径5メートルの野望』。突飛なことが書かれているわけではない。特別な境遇にある人にしかできない、特別なメソッドが提示されているわけでもない。いうなれば「当たり前」のこと、誰もが「そうすべきだよな」と思える方法や考え方がまとまっていると思う。でも、誰もがはあちゅうさんのようにはなれない。それはつまり、「当たり前」を続けることがいかに困難なことかということなのかもしれない。


発売してすぐに読んだ後、同僚に貸していたのが戻ってきたので、メモしておいた箇所について感想をまとめておく。

2015年5月4日月曜日

「独りで考える=オリジナル」ではない。新しいものを生み出し続ける方法とは――川上量生著『コンテンツの秘密』を読んで

アリストテレスがいう「異なるコンテンツ」と認められる要素

「メディアの輪郭」で紹介されていた川上量生さんの『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』(NHK出版新書)を読んだ。川上さんのジブリプロデューサー見習いとしての卒論とのこと。丁寧な検証がよくまとまった構成になっていて分かりやすく、川上さんだからこそ聞けたこと、視点があって、参考になる箇所がいくつもあった。

2015年2月28日土曜日

姉妹妻という百合好きには激推奨の話――『乙嫁語り(7)』を読んで


乙嫁語り(7)を読みました。今回は「姉妹妻」のお話なのですが、百合好きにはたまらん回でした。


姉妹妻とは、結婚して子供のいる女性同士が、同じ、夫を持つ妻として、子を持つ母として契りを交わす。相手の嫌がることは絶対にしない、陰で悪口も言わない。嬉しいことも悲しいことも、悩みもなんでも話して、お互いの心の本当の理解者になる、一生の親友とのことだそうです。

舞台となる世界、地域では、男性は四人まで妻が持てますが、平等に扱うという条件があるようです。

以下、少しネタバレしますが、

今回の乙嫁アニスは、裕福で心の優しい、いい夫に愛されており、子宝にも恵まれて幸せな日々をおくっているのですが、心のどこかで寂しさも感じていました。

そうした前提のなかで、ある日、乳母でお手伝いのマーフに、風呂屋の存在を聞き、夫に懇願。マーフと一緒に風呂屋を初体験することにします。

初めて行ったところ、ある女性出会い、なぜか心ひかれます。スリムで華奢、胸も大きくないアニスに対して、彼女は胸も大きくポッテリとしたセクシーな唇。髪の長さも含め対称的な二人。だからということもないのでしょうが、アニスにとっては、彼女は最初の瞬間から他の女性とは違って見えたようです。

しかし、再会を期待して風呂屋に行くアニスでしたが、その女性と出会えません。約束していつ訳でもなければ、メールやスマホはおろか電話もないのですから、予定を合わせて行くことも叶いません。

そしてようやく風呂屋で再会したとき、アニスは彼女に「次はいつくるの?」と聞きます。

アニスはもう彼女に恋する乙女のように惹かれているので必死です。

しかし相手はアニスほど裕福ではないため、そう何度も来れません。

そういった状況のなかで、アニスは悩みます。


「どうやって待ち合わせしたらいいかしら………」

そして思い付きます。


「………雨

雨がふったら会いましょう?

雨がふったら 私 次の日ここにくるわ」


せつなくて身悶えするような素敵な約束。
思わずうなりました。

その後、二人は姉妹妻となるのですが、まさに契りを交わしたその日、相手の女性に不幸が襲います。


アニスは悩み、ある提案をして、彼女とその家族の幸せを取り戻し、話は終わります。

要はアニスの夫が助けるかっこうなのですが、彼はいいます。

「誰かを助けるだけの力がありながら
それを使わないのは
よくないと思いませんか?」

この終わり方については、私はまったく疑問に思いませんでした。アニスの夫の言うこともその通りだと思う。

しかし、女性の立場ではどう感じるんだろうか?とは思いました。
もちろん、四人まで妻が持てるという時点で今の日本とは状況は異なりますが、それでも女性の意見を聞いてみたいと思いました。




2015年2月27日金曜日

「習慣に入り込めないアプリは使ってもらえない」――iQONの金山さん(VASILY)の話を聴いたら面白かった



ファッションアプリ「iQON」のVASILY金山CEOの講演をデブサミ2015で聴いた。iQONのことは知っていたが、女性向けでもあり使ったことはなかった。とても面白く気づきにあふれる講演だった。特にサイトの企画をやっていることもあって、参考にしたいポイントが結構あった。備忘のために記しておきたい。

2015年1月25日日曜日

dマガジンに登録。読めない記事も意外に多いがおおむね満足。



「月400円で雑誌が100誌以上が読み放題」というdマガジンに登録しました。雑誌のすべての記事が読めるわけではなく、読めない記事もあるし、一つのページのなかでもグレーにつぶされて読めなくなっている部分もありますが、400円でこれなら十分満足しています。雑誌を2冊以上買う人、買いたい人(読みたい人)にはオススメのサービスです。

2015年1月2日金曜日

小籔千豊さんと中川淳一郎さん 2人が否定するもの――年末年始に読んだ本『夢、死ね!』『中身化する社会』


年末のアメトーーク!5時間SPが2014年の放送を振り返る内容で、小籔千豊さんの名言が紹介されていた。

「テレビ出てる人間は異常者ばっかり。普通の人間は出れへん。 ヘンなヤツばっかり出てるから、マネするなよ子供は! 夢なんかすぐ捨てろ! やりたくないことをやるのが社会! それがジャングルや!」というもの。この「やりたくないことをやるのが社会」というのは、本当にそのとおりだと思う。

2014年12月14日日曜日

「事情」を言い訳にするのやめる!――『佐藤可士和の打ち合わせ』を読んで


佐藤可士和さんと野地秩嘉さん。

新刊を書店で見かけたらとりあえずチェックする名前。その両名が時をほぼ同じくして著した本のテーマが「打ち合わせ」だ(佐藤さんが11月、野地さんが10月)。今回は刊行直後に読んでそのままにしていた佐藤さんの新刊の感想をまとめておく。

2014年5月19日月曜日

デジタルネイティブでないクリエイターの未来ーー『ウェブとはすなわち現実世界の未来図である」(小林弘人著)を読んで



『ウェブとはすなわち現実世界の未来図である』(小林弘人、PHP新書)、あっという間に読みおえた。紙やウェブでいろいろな媒体を立ち上げ、経営も、表現もし続けてきた著者ならではの分析と提言が詰まった一冊で、一読の価値ありだと思う。

2014年4月24日木曜日

セリフと出だしが秀逸な「女の子の設計図」(紺野キタ/新書館)



紺野キタ先生にとって初の百合作品集(表題作が3話、ほかに3話)。絵はうまくてきれいで、できればカラー原稿で読みたいところ。モノローグ部分を含む台詞運びや情感の描き方に心を動かされます。特にグッと話に引き込む出だしの作り方など、うまいと感じさせられます。

2014年3月28日金曜日

ギド先生初の百合コミックスは長編への期待が高まる一冊——「終電にはかえします」(雨隠ギド/新書館)

  

 雨隠ギド先生の初百合コミックス。「初」というのが意外な短編集で、7作品掲載。女の子のかわいさはもちろん、ギャグっぽいシチュエーション、ストレートな表現、緩急や流れなど、ポエティックでいい。短編だからか物足りなく感じる部分もありますが、いいキャラがたくさん。どれも長編にしてもらいたい。装丁も素敵です。試し読み

2014年2月26日水曜日

最近買った本『誰も懲りない』『いくもん!』『ポエムに万歳!』『人間コク宝サブカル伝』など


先日購入した、我ながら濃いラインアップ。芳林堂書店高田馬場店にて購入。




中村珍さんの『誰も懲りない』はQJ連載時にも読んでいたのだけれど、飛ばしていた回もあり、今回通して読んでみて改めてお腹が重たくなった。『混迷社会の子育て問答 いくもん!』もそうだけれど、珍さんの作品は(というか、いい作品は)シビアな問いを読み手に突きつけてきて、自分の行動や発言、思想の甘さを見透かされていることが自覚されて、とても恥ずかしい気持ちになる。『誰も懲りない』は救いの無さかげんがハンパなくて、でもその人生を生きている主人公にとっては「(そんな厳しい現実だって)そういうもの」なんだろうし、端から見て勝手にかわいそうに感じて「救い」なんて言ってしまう甘さすらツカれそうで、勝手にヒリヒリしてしまった。

2014年2月13日木曜日

iOSとKindleの微妙な関係



「電子書籍を作っている」と言うと、「電子書籍ってどうやって作るんですか?」と聞かれることがままある。

 Web業界の人から聞かれたときは、

「ウェブサイトと似てますよ。ページをxhtml(HTML5)で書いて、CSSで見え方を決めて、画像はimageフォルダに格納して、パッケージにしたものを圧縮するんです。だから拡張子.epubは.zipに書き換えて解凍するとフォルダの中身が見られますよ」

と答える。
そうすると、だいたいイメージがつくようだ。


2013年12月27日金曜日

「文書が読める」は「意味が分かる」「仕事に使える」ではない——『A4一枚決算書速読術』を読んで




Webサイトの仕事が増えているので、アクセス解析をより深く理解せねばと思っている。具体的にはGoogle Analyticsを今以上に詳しく使えるようになりたいのだけれど、Googleという米企業のサイトだからかなのか何なのか、言葉遣いや構造が独特だなぁと感じてなかなか進まない。なんと言うか、日本人が作ったサービスじゃないなぁ、というか……。英語のサービスを日本語にしているからなのだろうか。


2013年11月18日月曜日

堀江貴文『ゼロ』感想——キョドらないためにはスタートラインに立ち、一歩を踏み出すしかない


堀江さんの新刊『ゼロ』を読みました。買ったまま未読の本もたまっていたので、「ちょっとだけ読んで、あとはまた後日ゆっくり……」と思ったらとんでもない、面白くて数時間で一気に読み終えました。堀江さんの本は結構読んでいるのですが、八女時代の話や両親の話など詳しく書かれていて新たな発見もかなりありましたし、本書への力の入れようがうかがえました(そうそうたるメンバーが制作・販売・宣伝にあたっていますが、ミリオンセラープロジェクトってのもストレートでいいですね)。


2013年10月11日金曜日

「円谷」の名の責任――円谷英明『ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗』を読んで



制作費の相場は200万。局から破格の550万もらいながら1000万もかけて番組を作っていた

 特撮の神様・円谷英二氏の孫、円谷英明氏の『ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗 (講談社現代新書)』を読んだ。帯にも「なぜ創業者一族は追放されたのか」とあるように、要は円谷プロにおける一族の内紛の裏側が、筆者の立場から描かれたものだ。自分は熱心な特撮ファンというわけではないので、「あのスーパーヒーロー・ウルトラマンをめぐり、円谷プロの内部や周囲ではこんなにもいろんなことがあったのか」と大変興味深く、一気に読み終えた。
 章タイトルを読むだけでも興味をそそられると思う。

 第一章 円谷プロの「不幸」
 模型作りが大好きだった祖父/四一歳で早世した二代社長 ほか
 第二章 テレビから「消えた」理由
 東宝主導のリストラ/「ウルトラマン先生」の無謀/TBSとの関係悪化 ほか
 第三章 厚かった「海外進出」の壁
 問題は「同族経営」ではない ほか
 第四章 円谷プロ「最大の失敗」
 遅すぎたウルトラマンランド閉園/偉大なるマンネリではいけなかったのか ほか
 第五章 難敵は「玩具優先主義」
 デザインは玩具優先に/圧倒的だったバンダイの影響力 ほか
 第六章 円谷商法「破綻の恐怖」
 番組予算のからくり/ハワイやラスベガスで豪遊 ほか
 第七章 ウルトラマンが泣いている
 三度目のお家騒動/急転直下の買収劇/円谷一族追放 ほか

 1974年生まれの僕にとってのウルトラマンの記憶といえば、幼稚園のころ、エースやレオが好きで、仮面ライダーごっこではなく、ウルトラマンのお面を先生につくってもらって遊んだこと。あとは小学生になってから80や、アニメのザ・ウルトラマンを観ていたことくらいだ。特にお面を作ってもらったときすごく嬉しかったことを覚えている。円谷つながりの記憶では、これも幼稚園のころ、ゴジラの大ぶりな人形が雑誌の懸賞で当たったことを覚えている。

 また、これは数年前のことだが、編集長を務めていた雑誌FJのリニューアル2号でウルトラQを取り上げたことがある。その時はスタジオを借りてカネゴンに来てもらった。Qのファンを公言しておられた宮台真司さんに登場いただき、表紙にも出てもらったカネゴンと宮台さんの2ショットを中吊りで使わせてもらった。特集では、円谷プロの造型師である品田冬樹さんと宮台さんの対談、桜井浩子さん、イラストレーターの開田裕治さん、モリタクさんらのインタビューを掲載した。



 その当時も、円谷プロの窮状については噂では聞いていた。ちょうどフィールズの傘下に入った関係で渋谷に引っ越したころだったように思う。

 本書を読んで思ったことは、「これでは経営がうまくいくはずがない」ということだ。
 もちろん、そうした評価を後からするのは簡単だし、放逐された創業者一族が書いた一面的な見方であることも忘れてはいけない。しかし、その分を差し引いても……と思わずにはいられないほど杜撰なものだった。

 途中、「問題は同族経営ではない」という見出しがあり、「おいおい」とツッコミながら読み進めると、筆者はこういう見解を示していた。


円谷プロの経営の問題は、同族経営ではなく、ワンマン経営にあったのです(p.88)。

  たしかにそうなのかもしれない。そう思ってしまうほど、過去の社長に対する評価は厳しい。本書の言い分が正しいとすれば、「そりゃ破たんするわ」というようなありえない経営、どんぶり勘定ぶりだ。特に経費の無駄遣いはひどかったようだ。

 しかし、それだけで経営が傾いたわけでは決してない。

 制作にコストをかけすぎなのだ。ともすれば作り手の満足のために、コストを考えずにものづくりに没頭できる環境ができてしまっている。
 制作者の「手を抜いて作るのは視聴者に失礼だから手なんか抜けない」という気持ちは分かる。「作り手として自分が満足できるものを作りたい、でないと伝わらない」という言い分も分かる。しかしサークル活動じゃないんだから、そんな状態で続けていていいはずがない。たとえば「1000万もらって3000万使うけど、あとで儲かるから大丈夫……」なんてことがずっと続くわけがないのだ。

 見出しにも書いたが、30分の子ども番組の制作費が200万円が相場で、大人向けのドラマが500万円という時代に、円谷や550万ももらっていた。それだけ期待がかかっていたというわけだが、1000万近くかけて作っていたというから、そりゃもう大変なことである(p.33)。
 筆者はまたこうもいう。

円谷プロの経営陣は、伝統的に実業界の集団ではなく技術者集団で、経営感覚はあまりなかったと思います。

 そう、だからこそ外部の経営者が必要だったはずだ。
 筆者が「問題は同族経営ではない」とした理由は経営問題の背景について、筆者はこう説明している。


 その原因は同族経営にあると言われているのですが、私はこれに異論があります。一九七三年に叔父の皐さんが三代社長に就任し、皐さんの死後、四代社長には息子の一夫さんがなっています。その間、我々円谷一の家族は、円谷プロの経営の中枢には関与できなかったのです(p.87)。

 たしかに円谷英二氏の長男である一氏(二代社長)の子ども(二男である筆者ら3人)が中枢にいられなかったのは事実なのだろう。しかし一氏の家族が経営の中枢にいたからといって成功していたかどうかは疑問だ。

 円谷英二は特撮の神様だった。それは間違いない。
 しかし名経営者だったわけではない。
 そして、特撮の神様の子どもや孫が同じ分野で秀でているとは限らない。経営にたけているとも限らない。
 円谷英二という不世出の天才を活躍させる場としての円谷特殊技術研究所は不可欠な舞台だったのかもしれないが、その組織の持続と成長を、子孫に任せることには何の意味もない(というといいすぎか。大した意味はない)としか思えない。どうだろうか。
 それは何も円谷、映像ビジネスということに限らず、企業の事業承継において言えることなのだろうけれど。

 筆者は同じp.88にこうも書いている。


私は円谷エンタープライズや円谷コミュニケーションズに出ていた間、いずれ必ず円谷プロに戻って、かつての円谷プロのものづくりスピリットを取り戻したいと思っていたので(後略)

 この「ものづくりスピリット」は曲者だ。
 気持ちの問題に置き換えると麗しく聞こえてくるのだが、熱い気持ちがあるからといって成功するとは限らない。また「ものづくり」という言葉が出ると、聞こえがよく、専心することが麗しい、美しいことのように思えてしまう。
 だが芸術でもないのに、コストを湯水のようにかけ続けてはいけない。やる気と情熱は、必要条件だが十分条件ではない。熱い気持ちと冷静な判断力がなければ、いいものを作っても届けることができなくなり、やがては作れなくなってしまう。

 といいつつも、同情してしまう側面もある。
 筆者によれば1971年のキャラクタービジネスの売り上げは20億円で、円谷プロには収入として6000万入ってきたという。本書には「著作権ビジネスという麻薬」という小見出しもあるが、まさに感覚を麻痺させるには十分な大金といえる。「いま作るのにお金がかかっても必ず回収できる」と思ってしまっても仕方ないのかもしれない。
 それに日本は今と違って成長期にあった。消費が増えていくことも予想されていたのだとすれば、イケイケになってしまった当時を今から責めるのはさすがに気が咎める。

 たらればの話をしてもせんないのだが、筆者ら一族の一部が中枢にいたからといって成功したのだろうか……。
 筆者が書いた以下の文は残念ながら認めざるを得ない。
 
ウルトラマンが泣いているーー今にして思えば、現実の世界でウルトラマンを悲劇のヒーローにしてしまったのは、我々円谷一族の独善か、驕りだったのでしょう。


* * *

 本書の引用で面白いものがあったので合わせて紹介したい。庵野さんが特撮の将来を憂いて(?)語ったものだが、その通りだと思った。


特撮物はテレビでの空白期間が長すぎて、現状では若者に定着しづらいんじゃないですかね。(中略)空白期間が15m年近くあるわけで、これはなかなか取り返しがつかないと思います、今の30歳から20歳くらいまでの人は、特撮には何の興味もないですからね。(中略)僕等のせいだはアニメと特撮という共通体験があるんですけど、今の若い人はアニメとゲームなんですね、共通言語が。特撮をほとんど見ていない、というか興味もない人がほとんどです」
庵野秀明(2001年、 『円谷英二 生誕100年』、河出書房新社)

 特撮ファンではないといったが、特撮は好きだし、もの作りに従事している人たちには頑張ってほしいと思うし、日本の特撮業界、そして円谷プロには再び輝いてほしいと思った。


2013年9月12日木曜日

林真理子さんの清々しさに感銘。秋元+鈴木対談はもったいないーー新書『野心のすすめ』『天職』感想

 

 少し前のことですが、林真理子さんの『野心のすすめ 』を読みました。林さんの小説は女性向けというイメージが強かったせいか読んだことがありませんが、タイトルや帯の「“高望み”で人生は変わる」といったコピーを見て、時代への逆行感がとても清々しく感じられ、手に取りました。既にかなり売れていたことも、読まなければと思った理由です。

 林さんにはすごく勝手な、なかなか書きづらいイメージを持っていました。アグネス論争しかり、いまはきれいになられたと思いますが、昔のイメージは決してそんなものではなかったと思います。しかし、本書を読んで、また同時期に複数出演されたTV番組(情熱大陸ほか)を観て、林さんに好感を持つようになりました。

 まず林さんがこれまでどういう人生を歩んできたのか、何を考えて来たのかを読むだけでまず楽しかった。直木賞作家で、ベストセラーを連発、多数の作品が映画化、ドラマ化されているのは知っていましたが、その作品や考えに直接触れたことがありませんでしたから。彼女は自分のコンプレックスをしっかり認め、あきらめずに努力してきた。その努力を隠さず書いていますが、実は若いころは易きに流れていた時代が意外にもあったそうです。「はじめに」でもハッキリと、上を目指すことを特に若い人にススめています。

 そして、若い世代に蔓延している「ユニクロと松屋でオッケーじゃん」という考えを、しっかりと彼女なりの理論で否定し、心配します。

 「人によっては、努力することよりも、野心を持つこと自体のほうが難しいのかもしれません」とした上で、野心を持つことができる人は、「自分に与えられた時間はこれだけしかない、という考えが常に身に染み付いている人」と分析。その上で、「私が最近の若い人を見ていてとても心配なのは、自分の将来を具体的に思い描く想像力が致命的に欠けているのではないかということです」という。そういう考えだからこそ、「ユニクロと松屋でオッケー」という発想になるのだろうと。

 このあたりも含めて、未読の方は是非読まれることを勧めますが、印をつけた箇所をいくつか引用したいと思います。

やってしまった過去を悔やむ心からはちゃんと血が出てかさぶたができて治っていくけれど、やらなかった取り返しのつかなさを悔やむ心には、切り傷とはまた違う、内出血のような痛みが続きます。内側に留まったままの後悔はいかんともしがたいものです(p.25 第一章 野心が足りない)。
野心は習慣性のある心でもあります。勝ち気な人って非難されたりもしますけど、一度も勝ったことがない人は勝ち気にさえなれない。どんなに小さいことからでもいい。人に認められる快感を味わい、勝った記憶を積み上げていくと、人格だって変わっていくんです(p.174 第五章 野心の幸福論)。 
同じ時間を生きているのに、私たち人間には知識や器の差がある。この差はどこから生じるかろいうと、隙間の時間にもどれだけ積極的に自分の人生とかかわっているかの違いに拠るところが大きい(p.183 同)。
また、女性が専業主婦になることに対して否定的な持論を展開、働き続けたほうがいいと述べておられますが、まったくもって賛成でした。

 (読んだことがない/あまり好きじゃない)林さんの本だから……と食わず嫌いの方がいらしたら、先入観持たずにまず読んでみていただきたいと思います。



 同時期に秋元康さんと鈴木おさむさんの『天職』も読みました。内容はといえば、さすがの二人、とてもタメになったし、たくさん印も付けました。

 でも何だか軽かった気がします。よくよく分析したわけではないですが、やはり2人ともビッグすぎて、それぞれの哲学が掘り下げられていないことが原因ではないかと思います。
 秋元さんも鈴木さんも、自分の考えを述べるだけで十分、本になる。なのに、対談となるとお互い気を遣って、自分のことばかり話したりしないので、どうしても表面をなぞるような感じになってしまったのではないかと思いました。

 たとえばどちらかがインタビュアーに徹するとかいった形なら、また違ったのかもしれません。

 たしかに共にTV業界で活躍してきた二人だからこそ出た話もあるのでしょうが、うまいインタビュアーだったらあれくらいは引き出せたと思います。

 でも、面白いです。


2013年8月23日金曜日

『アニメ ビジエンス』創刊号感想 カラー減らしてテキスト増やして……

一つひとつの記事は面白い



アニメ ビジエンス』の創刊号。無料(第2号以降は定期購読)ということで取り寄せて読んだ。判型はA4正寸と大きめ、無線綴じ60ページフルカラーだ。2号からは一号あたり1500円になるという。面白い記事もあったし、試みとしては応援したいが、これを1500円出して自腹で買うかと問われると……答えに窮する。読みたいとは思うが、うーん、買わないと思う。

 雑誌名である『アニメ ビジエンス』。聞き慣れないはずで、編集発行人の創刊言によれば、
アニメの「利用価値」を俯瞰で捉え、アニメ産業の可能性を探りたいというニーズがあるのではないかと考え、アニメビジネスを科学する(ビジネス+サイエンス)という意味で「アニメ ビジエンス」と名付けました。
とのこと。こうした位置づけの定期刊行物って他にはないと思う。

 表紙は庵野秀明監督によるヤマト。これだけでもちょっと手元においておきたくなる。
 特集は「クールジャパンはビジネスになるのか?」だ。「クールジャパンというとアニメに限らなくなるけど……」という指摘もあろうが、そこは特集トビラのリードでしっかり説明されている。いわく「『アニメ ビジエンス』はアニメ業界ビジネス誌なので『クールジャパン』そのものを語るべきではないが、今一度、『クールジャパンという構想がアニメ業界に対して何をもたらすか考えてみたいと思った」とのことだ。
 インタビュイーとしてアニプレックスの夏目公一朗社長、バンダイナムコゲームスの鵜之澤伸副社長、明大の森川嘉一郎准教授ら豪華なラインアップ。石川千代田区長へも取材しており、実にシブい。ほかにもTOKYO OTAKU MODEの亀井・秋山両ファウンダーにも取材、全体的に面白かった。

 業界誌らしくデータベースとしての機能もしっかり果たしている。2012年度の劇場用アニメーション総括を氷川竜介さんが執筆しているほか、4月から6月期のアニメビジネスのデータを藤津亮太さんがまとめている。
 
 このほかにクリエイターインタビューシリーズに原恵一監督が登場。スタジオ訪問の第1回はユーフォーテーブル福井健策弁護士による著作権と法務とアニメ(内容は児ポ)、マッドハウスを設立した丸山正雄さんの一代記など、連載ラインアップもそれぞれネタもすごいし、記事も良かった。

 楽しく読めたのだが、それでもやはり1500円はちょっと高いと思った。

なぜこのパッケージなのだろうか

本誌は定期購読のみの業界誌で、書店で広く販売する一般の書籍とは違う。内容も専門的で、「アニメ」というキーワードというより、「アニメ ビジネス」にピンとくる人しか買わないだろう。買う人が限られる以上、ある程度高い金額にするという形は珍しくない。そして、内容も狙った方向性にあるとは思う。

 しかし、最近では一般のビジネス誌などでもアニメなどを取り上げる時代だ。「アニメ ビジネス」という切り口は、定期刊行雑誌のメインテーマとしては珍しいかもしれないが、ビジネス誌や一般誌やブログ、ネットニュースなどに読み物や分析がたくさんあって、どうしても本誌でないと読めないという状況にはない。

 だから専門性をもっともっと高めてマニアックにして、「ここでしか読めない」「この雑誌の分析が読みたい」ということにならないと、ちょっとこの値段は出せないのではないだろうかと思う。そういう目線で読むと、まだマニアック度が足りない(多くの人にとって読みやすい)気がする。

 自分がアニメ絵を表紙にした雑誌を安く作っていたから言うのではない(休刊してしまった以上、アドバイスできるはずもない)のだが、読者として思うのは、もっと別のやり方があるのではないだろうかということだ。

 いま注目されているパッケージの一つに「メルマガ」がある。たとえば、この雑誌をメルマガという形で出すということはあり得なかったのだろうか? メルマガは筆者の個人メディアという色合いが強いけれど、コストはかなり抑えられる。紙で出すとその分、印刷代や送料がかかるのは言うまでもないからだ。

 メルマガはあり得ないとしても、A4正寸という大きめのサイズで、60ページ全部をフルカラーにする必要が、この内容の雑誌であるのだろうか。

 正直なところ、テキストは面白いとしても、全体的にビジュアルにそれほど凝っているとは思えない。もちろん、「庵野ヤマトの絵を取っておきたい」といったオタクマインドにうったえる雑誌ならば、フルカラーはアリだろう。人気キャラのグラビアは1Cや2Cではファンは物足りないからだ。でもそれだとライバルは『アニメージュ』『アニメディア』になってしまって、コンセプトからはかけ離れてしまう。
 中で使用されている写真にしても、作品のキャプチャは版権主から提供されているからきれいなビジュアルだが、カメラマンが撮ったのではない写真も散見されるし、データベースページの表組レイアウト(特にここは強調したい。読みづらい)、記事そのもののレイアウトなどを合わせてみても、いわゆる「業界誌」然としており、カラーで見せる必要があるとは思えない。

 もしそこで判型やカラーの割合などを変えることでコストが抑えられるのであれば、それは悪くない話ではないだろうか。

 繰り返すけれども内容は面白い。けれど、福井弁護士にはもっともっとマニアックな法律の話が聞きたいし、原監督のインタビューは2ページじゃ少なすぎる。データベースページは参考になるけど表組が読みにくすぎる。スワッチの業界見聞録なんてシブい企画だと思うし、特集も取材先の話をもっと聞きたい。

 サイズをA5くらいにして、1C・2Cのページを増やせば、もっとで出したりすれば、広告の自由度が下がるけれど記事がもっと読めるんじゃないかなぁ、と思ったのだが、いかがだろうか?
 雑誌の継続のための支援とか、領収書とって経費でおとすから、ではなく、一読者として読み続けようという方はどれくらいいらっしゃるか、気になる。