2013年9月12日木曜日

林真理子さんの清々しさに感銘。秋元+鈴木対談はもったいないーー新書『野心のすすめ』『天職』感想

 

 少し前のことですが、林真理子さんの『野心のすすめ 』を読みました。林さんの小説は女性向けというイメージが強かったせいか読んだことがありませんが、タイトルや帯の「“高望み”で人生は変わる」といったコピーを見て、時代への逆行感がとても清々しく感じられ、手に取りました。既にかなり売れていたことも、読まなければと思った理由です。

 林さんにはすごく勝手な、なかなか書きづらいイメージを持っていました。アグネス論争しかり、いまはきれいになられたと思いますが、昔のイメージは決してそんなものではなかったと思います。しかし、本書を読んで、また同時期に複数出演されたTV番組(情熱大陸ほか)を観て、林さんに好感を持つようになりました。

 まず林さんがこれまでどういう人生を歩んできたのか、何を考えて来たのかを読むだけでまず楽しかった。直木賞作家で、ベストセラーを連発、多数の作品が映画化、ドラマ化されているのは知っていましたが、その作品や考えに直接触れたことがありませんでしたから。彼女は自分のコンプレックスをしっかり認め、あきらめずに努力してきた。その努力を隠さず書いていますが、実は若いころは易きに流れていた時代が意外にもあったそうです。「はじめに」でもハッキリと、上を目指すことを特に若い人にススめています。

 そして、若い世代に蔓延している「ユニクロと松屋でオッケーじゃん」という考えを、しっかりと彼女なりの理論で否定し、心配します。

 「人によっては、努力することよりも、野心を持つこと自体のほうが難しいのかもしれません」とした上で、野心を持つことができる人は、「自分に与えられた時間はこれだけしかない、という考えが常に身に染み付いている人」と分析。その上で、「私が最近の若い人を見ていてとても心配なのは、自分の将来を具体的に思い描く想像力が致命的に欠けているのではないかということです」という。そういう考えだからこそ、「ユニクロと松屋でオッケー」という発想になるのだろうと。

 このあたりも含めて、未読の方は是非読まれることを勧めますが、印をつけた箇所をいくつか引用したいと思います。

やってしまった過去を悔やむ心からはちゃんと血が出てかさぶたができて治っていくけれど、やらなかった取り返しのつかなさを悔やむ心には、切り傷とはまた違う、内出血のような痛みが続きます。内側に留まったままの後悔はいかんともしがたいものです(p.25 第一章 野心が足りない)。
野心は習慣性のある心でもあります。勝ち気な人って非難されたりもしますけど、一度も勝ったことがない人は勝ち気にさえなれない。どんなに小さいことからでもいい。人に認められる快感を味わい、勝った記憶を積み上げていくと、人格だって変わっていくんです(p.174 第五章 野心の幸福論)。 
同じ時間を生きているのに、私たち人間には知識や器の差がある。この差はどこから生じるかろいうと、隙間の時間にもどれだけ積極的に自分の人生とかかわっているかの違いに拠るところが大きい(p.183 同)。
また、女性が専業主婦になることに対して否定的な持論を展開、働き続けたほうがいいと述べておられますが、まったくもって賛成でした。

 (読んだことがない/あまり好きじゃない)林さんの本だから……と食わず嫌いの方がいらしたら、先入観持たずにまず読んでみていただきたいと思います。



 同時期に秋元康さんと鈴木おさむさんの『天職』も読みました。内容はといえば、さすがの二人、とてもタメになったし、たくさん印も付けました。

 でも何だか軽かった気がします。よくよく分析したわけではないですが、やはり2人ともビッグすぎて、それぞれの哲学が掘り下げられていないことが原因ではないかと思います。
 秋元さんも鈴木さんも、自分の考えを述べるだけで十分、本になる。なのに、対談となるとお互い気を遣って、自分のことばかり話したりしないので、どうしても表面をなぞるような感じになってしまったのではないかと思いました。

 たとえばどちらかがインタビュアーに徹するとかいった形なら、また違ったのかもしれません。

 たしかに共にTV業界で活躍してきた二人だからこそ出た話もあるのでしょうが、うまいインタビュアーだったらあれくらいは引き出せたと思います。

 でも、面白いです。