2024年4月6日土曜日

『ウッドストック行最終バス』、モースのクセの強さが好きになれるかどうか……

ウッドストック行最終バス

ウッドストック行最終バス』(コリン・デクスター、ハヤカワ文庫)読了。英国ではホームズやポワロと並んで(それ以上に?)人気があるという刑事・モースが主人公の第一作。以前、モースの若いころを描いたドラマが面白かったこと、森博嗣さんが『森博嗣のミステリィ工作室』(講談社)で、自身が影響を受けたミステリィ100選にも選んでいらしたことから読んでみました。ちょっと分かりづらかったけれど、モースのキャラが良くて面白く読めました。

オクスフォードの学生から警察へ

本作は昔の本(邦訳の初版は1975年?)であり、かつ翻訳モノ(原作は英語)ということもあり、言い回し、表現などにクセがあるので、このあたりは慣れていないと読みにくさを感じるかもしれません。それはそういうものだとして差し引いたとして、モースのキャラを好きになれるかどうかがこの作品を評価するかどうかに大きく影響すると思います。

モースがどんなキャラクターかというと、オクスフォード大に入るも恋愛で学業がおろそかになり奨学金を打ち切られ、軍隊に入るが肌にあわず、結果として警察に入るという変わった経歴の持ち主です。クロスワードパズルとワーグナーが好き、スペリングミスにうるさい反面、酒・たばこ・女好きというギャップの持ち主でもあります。

捜査方法も独特で、科学的な捜査ではなく、頭の中でいろいろな仮説をたてては検証していくスタイル。アームチェア・ディテクティブというほどではないものの、足でかせぐ系の刑事ではありません。

モース=ショーン・エヴァンス

自分が見たドラマはモースが若かったころのもの(『刑事モース〜オックスフォード事件簿〜』)で、主演のショーン・エヴァンスのインテリで神経質そうなルックスが印象深いです。14年にわたって続いた人気ドラマ『主任警部モース』のほうは見ていないので、自分にとってのモースはショーン・エヴァンスで、本作を読むときも、どうしても脳内で彼(が年を取ったところ)を想像してしまいました。

さて本作は、ヒッチハイクをした若い女性2人のうち1人が酒場で死体で発見されるが、なぜかもう1人の女性が名乗り出てこないという話です。ちょっとややこしくて分かりづらい部分もありましたが、おおよそ把握しつつ読み進めました。

面白いと思ったのは、12章でモースがフェルミ推定を使って被疑者がどれくらい居そうか絞り込むところです。たとえばこんな感じです。

ノース・オックスフォードの人口がだいたい1万人、そのうち成人男子は4分の1くらいで2500人、うち被疑者の推定年齢である35~50歳くらいの男性は半分の1250人。妻帯者はそのうち1000人くらいで、半分が酒を飲む(死体発見現場が酒場)として500人。犯人が書いたとみられる手紙を見るにそれなりに知能が高そうなので、トップ5%くらいと想定して25人……といった具合で、最終的には1人に(一人しかいない)絞り込んでしまいます。

まあこんなのは何の証拠にもなりませんが、こういう発想をこの当時からする人がいるんだなというのが興味深かったです。

またモースは女好きで、ほかの事件でも知り合った女性にすぐ惚れていしまうようですが、それは第一作の本作でも同じです。それも想いを心に秘めるだけでなく、普通に誘いだしたりしていて、今ならとてもじゃないけど考えられないなと思いました。

時代による変化に対する驚きという意味でいうと、昼間からビール飲んだり、部下の荒い使い方だったりという点も同じで、今なら問題になりそうではあります。

本作は、すごくハマったというほどではありませんが、森博嗣さんは100作のなかで、ほかにもデクスター作品(モース登場作品)を2作選んでいらっしゃるので、おいおい読んでみようかなと思っています。