2014年3月28日金曜日

ギド先生初の百合コミックスは長編への期待が高まる一冊——「終電にはかえします」(雨隠ギド/新書館)

  

 雨隠ギド先生の初百合コミックス。「初」というのが意外な短編集で、7作品掲載。女の子のかわいさはもちろん、ギャグっぽいシチュエーション、ストレートな表現、緩急や流れなど、ポエティックでいい。短編だからか物足りなく感じる部分もありますが、いいキャラがたくさん。どれも長編にしてもらいたい。装丁も素敵です。試し読み




 以下、それぞれの内容に若干触れます。作品タグはポイント・構図です。

 「ひらがな線、あいう駅より」「終電にはかえします」
 作品タグ:「年上ガーリー&年下ボーイッシュ」「女子高」「卒業」

 話の流れ。ボーイッシュなツネが、小悪魔ガーリーなあさきを好きになり、通学電車の中で近づく。(まだ百合心に気づいていない)あさきが、ツネの照れるところを見て(不覚にも)「カワイイ!」と思ってしまうところまでが最初の読み切り「ひらがな線〜」。続く「終電には〜」では、先輩あさきが「卒業で離れることへの不安」をツネにぶつけます。エラく展開が早いなぁと思ったら読み切りでした(発表がそれぞれ2011年と13年なので、読み切りに続きを描かれたということでしょうか)。

「ひらがな線〜」と電車にちなんだタイトルが着いているので、後編が「終電には〜」となるのはおかしくはないんだけれど、事前にイメージしてたものとはちょっと違った。いいタイトルだけれど、本作に合っているかといわれると、ちょっと??

「少女プラネタリウム」
 作品タグ:「おとなし眼鏡&フツー」「女子高」「先輩百合っぷる」。

 物静かなクラスメート(サトウさん)がまるで「空気」のようで存在感がなく、誰ともつるまないのは、学校以外で自分の居場所を見つけていたから。それは家庭用プラネタリウムのある先輩(大人)百合っぷる(タカハシさん、タナカさん)の家。はからずもそこでのサトウさんの姿を知り、惹かれる主人公(スズキ)だが、先輩百合っぷると抱き合うサトウさんを見て、自分の百合心に気づく。「女の子なのに」と自制する主人公だが抑えきれなくなる。
 
 スズキさんとプラネタリウムで星を見上げながら、サトウさんは幼い頃になくした母のことを話し、「新しい星を見つけたら母さんの名前をつけたい」といい、こう続ける。
(星は)どんなに光ってても誰かに気づいてもらえないとないのといっしょなんだよ
  そんな彼女への恋心に気づいた主人公の自問がまた切ない。
今生まれてる爆発そうな気持ちは
あなたに伝わるように名前をつけてあげないと
ないのと同じなの!?

もしそうならこの気持ちは
今ここで死んじゃえばいいんだ

 ポイントとしては、百合の鉄板「女の子なのに、女の子を好きになっちゃっておかしい」と自分の気持ちを抑えようとする(でも抑えられない)というあたり。物静かなクラスメイトに大人の友達がいる、というのも。

 あとは、先輩百合っぷるの一人・タカハシさんと抱き合って寝ていたサトちゃんを見たスズキさんが嫉妬心を抱いたシーン(p.75)の擬音がよかったです。

「一瞬のアステリズム」
 作品タグ:「一方通行片思いの輪」「女子高」「複数カップル」

 3人がそれぞれ片思いしているお話です。組み合わせは「ボーイッシュ(短髪スポーツガール)→ ニュートラル(短髪クール目)→ ガーリー(黒髪ウェーブロンゲ)→」。
 この落とし方は新しい恋の形な気がする。ボーイッシュから、3人で仲良くしようという提案を聞いた主人公(ニュートラル)は「そんなのゆるされるのかなぁ」といい、こう自問します。
「都合がよくて おとなが怒りそうな
何も変わりたくない私の甘えた望みに似ている」
 主人公の独り言にガーリー(ニュートラルの思い人)がこう答える。
「そんなの私達が許すわ」

 この落とし方は新しいなぁ。

 「大人なんか関係ない」というのは、異性恋愛ものでもありますが、百合だと余計応援したくなります。


「永遠に少女」
作品タグ:「黒髪ロンゲ」「ファンタジー」「姉妹で取り合い」

 「恋煩いフリークス」的なファンタジー作品。3歳くらいの女の子・みさおは、幽霊(?)のみずきと出会う。みずきはみさおにしか見えない。みさおは大きくなっていくが、みずきは年を取らず、一緒に毎日を過ごし、絆を深めていく。
 映画「ゴースト」や「夏雪ランデブー」など異性恋愛ものでは時々見かけるモチーフですが、まさか百合でもあるとは。ただでさえ百合ってだけで切なさまとってるのに! さらに幽霊だなんて! なんて切ない。。。


「大人の階段の下」
作品タグ:「お姉ちゃんの友達」「黒髪ロンゲ」

 チャらい姉(アキ)が家に連れてくるチャラい友達の中に、一人だけ黒髪ロンゲの清楚な女の子(久我雪子)を見つけ、一目惚れ(?)する主人公(アキの妹・なつ)。アキが陰で友達と、久我さんを家に連れてきたのは転入生でかわいそうだったからだというのを聞いたなつは、「お姉ちゃんは久我さんとは仲良くなる気はないんだ」と思い、久我さんに友達になってくれと告白するが、それを聞いていた姉は「ゆきこはあんたじゃなくて、私のともだちなの!」と妹を追い払う。
 
 いいタイトルなんだけど、憧れる相手が大人じゃないので、そぐわしいかといわれると……。始まり方、とてもいい。「おねえちゃんも おねえちゃんの友達もあんまり好きじゃない」というなつのモノローグで始まるが、雪子が階段を上がりながらなつに微笑みかけるアップ。ワクワクする。
 起承転結でいうと「転」にあたる、雪子とアキが玄関でお別れするシーン。「ええっ!」てなもんで、そのまま終わりに突入するのですが、若干拍子抜けした感もありました。

「少女星図」
「少女プラネタリウム」のサイドストーリー(後日譚、4ページ)。

* * *

 これは本作に限った話ではないのですが、短編のあり方について思うこと。
 出会いから結ばれるまでの濃密な期間を短いページ数に凝縮するため、どうしてもはしょってしまうことになって物足りなさを感じてしまいます。
 自分の好みのタイプが、長い時間をかけて、好きな気持ちに気づいたり、相手の意外な一面に驚いたりして、自分の気持ち・葛藤に悩み、そうした日々の中で、「ふと」ある日、何か出来事が起きる、みたいなものなので、「もう結ばれた」「もうそんなに気持ちが変わった」と思ってしまう……。
 好みの問題なのであれば仕方ないのですが。
 小説の短編・掌編だとすべてビジュアルは想像なので、そこに書かれていない部分についても想像するしかないですが、漫画はそうではありません。漫画に描かれて”いない”部分だけを想像を委ねてしまう、裏返せば描かれている部分こそがリアルであると頭の中で決めてしまっているのかもしれません。だから読み切りなどの短編漫画の後日譚を想像しても、「嘘」のように思えてしまいます。
 まぁ文章にしても絵にしても、いずれにせよフィクションではあるのですが、このあたりの感じ方については、引き続き考えてみたいし、いろいろな意見を読んだり聞いたりしてみたいと思います。



(2014.3時点の感想)