2014年4月24日木曜日

セリフと出だしが秀逸な「女の子の設計図」(紺野キタ/新書館)



紺野キタ先生にとって初の百合作品集(表題作が3話、ほかに3話)。絵はうまくてきれいで、できればカラー原稿で読みたいところ。モノローグ部分を含む台詞運びや情感の描き方に心を動かされます。特にグッと話に引き込む出だしの作り方など、うまいと感じさせられます。



今回も感想だけでなく、それぞれの内容に若干触れています。作品タグは特徴です。

「女の子の設計図」(1〜3話)
作品タグ:「年上ガーリー&年下ボーイッシュ」「女子高」「姉妹」

話の流れ。両親の離婚で離れて暮らしていた姉妹。父が再婚することになり、父に引き取られていた姉が母・妹の家へ。昔から髪が長くてフェミニンな姉に、妹は憧れていて……。

設定がちょっと変わっていて、姉妹なんだけれど4月生まれと3月生まれで同じ学年(これはどういう狙いが?)。3話で終わってしまうので葛藤の描かれ方が物足りないですが、きれいにまとめてある感じ。詩的でひたれる世界でもある。

クライマックスのシーンは台詞もいい。思いを伝えあった後で姉が妹にいう。
私たちってヴァンパイアみたい

陽が当たる所へ出たらいけないの
明るいおひさまのもとでは たちまち罰せられてしまう

だからヒトとは設計図が違うんだ
この後、妹が「私と花南ちゃんは同じ設計図だよね 姉妹だもん」と返すのだが、これは天気のいい昼間の公園で寝転がりながらのシーン。この前のシーン(前夜)、就寝する直前に思いを伝え合っているのだけれど、そこではなく、夜が明けて翌日にこのシーンをもってきている。「陽が当たる所に出たら行けない」「ヴァンパイアみたい」という台詞をお陽さまの下で言わせているところに、2人の関係に対する清々しい肯定感を覚える。その後の妹・青音の心情吐露、「覚悟なんて言わないでよ」という台詞やモノローグも含めて、派手ではないけれども着実に2人の関係が始まったことを実感させる。心にしみ入ってくる感覚です。

ただ花南で「かな」はともかく、青音で「あと」っていう名前はあまり一般的でない気が。そこの狙いはどういったものなのだろう?


「少年」
作品タグ:「年上ガーリー&年下ボーイッシュ」「女子高」

これは出だしがとてもいい。2年の女の子・密(ひそか)が1年の女の子・宮路を好きになって、呼び出して告白するシーンから始まる。しゃべるのは密(ひそか)。

もう困り果ててしまってーー

考えあぐね 直接 君に相談してみようと思い立ったのです

今の状況をつまびらかに申しますと
私の中に少年がいて 君に恋しています

この言い回しも「君」という呼称もいい。音楽室での出会いとか、思いを伝えてとても苦しげな顔をしている密を見て嗜虐心をくすぐられる宮路の気持ちの揺れ動きもいい。「自分の中に少年が生まれた」という思い込み、表現もすごく展開を期待させる……

んだけど、音楽室である必要性とか、「少年」が生まれたという割には、ただ女性を好きになったから=少年、という感じがして、これももうちょっと葛藤が感じられてよかったのではないかと思った。

設定のキモは宮路の親ということになるのでしょうね。


「wicca」
作品タグ:「ファンタジー」「黒髪ロンゲ」「いじめ」

これも出だしがいい。「私はおまえが嫌いなんだよ」。
仲が良かった2人組だが、いじめの関係に。いじめられていたほうが自殺し、復讐(?)するちょっと不思議な話。ただでさえ「いじめ」が描かれると、人間性とか他人とのつながりに対する考え方とか、そういう本質に近づく物語になるのだけれど、そこでさらに同性同士という……重すぎるし怖すぎる(苦笑)。

しかしあの終わり方はどう解釈すればいいのだろう、と思っていたらこちらにこういう感想が書かれていた。なるほど、春名もホッとしているのか。なんと切ない。。。


「おんなのからだ」
作品タグ:「親族」

義理の姉妹の話です。ダンナの浮気で傷心の義姉に惚れていた義妹が告白。やがて義姉は離婚することになり、そうすると戸籍上のつながりがなくなってしまう。その日が近づくなかで、2人の関係は……というお話。タイトル、そして「指にまだお義姉さんの匂いが残ってる」という台詞からも分かるように、若干、微かにエロティックな表現があります。

まさに短編の醍醐味だと思わされましたが、お義姉さんが大人だからか(学生同士の関係と比べて)リアリティが感じられる。うーん、偏見だろうか。



前回、ギド先生の作品集の感想書いたときにも触れたのだけれど、短編はやっぱり難しいなぁと。今回思ったのは、「学校モノ」と短編はあまり親和性が高くないのではないかということ。学校生活って振り返ってみれば短いけれど、さなかにあるときは永遠にも感じられるくらい長い。だから、恋愛や人間関係の変化を描くのに時間をかけたほうがリアリティがあるんじゃないかなぁ。どうだろう。

(2014.4月時点の感想)