2019年7月26日金曜日

ヨッピー『明日クビになっても大丈夫!』は”わかりみ”しかない──クリエイター、フリー志望者必読の書

2017年発売のヨッピーさん『明日クビになっても大丈夫!』(幻冬舎)を今さらながら読んだ。よくヨッピーさんのことを知らない人が持っているであろう彼へのイメージが、いい形で覆される、納得感あふれる、わかりみにあふれる一冊だった。

ヨッピーさんの意外な?一面

ヨッピーさんといえば、オモコロなどのWebメディアを中心に、自分をさらけだし、下ネタのようなこともやるちょっと、いやかなり変わったライターというイメージが強いのではないかと思う。

実はその一方で、BUZZNEWSのパクリ問題やPC DEPOTの高齢者高額解除料問題など、社会的なテーマも扱っているライターでもある。

そんな彼の初の単著は、自身の経験に裏打ちされた思想と哲学が分かりやすく面白く、伝わりやすい筆運びでまとめられている。

彼が大学を出て会社勤めをしていた頃の話、独立に至り、フリーになってからどんなことをどういう思いでやってきたかという話など、どれも面白く、考えさせられるものがある。

たとえばサラリーマン時代を振り返り、

「決裁に時間がかかる」事を少し誇るような言いかたをする人達が社内にいた

ことに対して表明する違和感。これは少し大きな企業や組織に属したり、属している人と働いたりすれば感じたことのある”マウンティング”の一種だ。これを読んで自分も「あるある(いるいる)」と思った(ただいこういう人たちは、「それがダメなんだ」と言ったところで通じないので放っておくしかないのだが)。

自分は仕事で文章を書いたり直したりしているが、職業ライター・エディターより断然文章や企画がうまいブロガー、サラリーマンの存在を知って愕然ともする。

これは原稿や文章にだけ言えることではなくて、映像だってイラストだってそうだろう。

昔は書いたり放送したりする場所が限られていて、そこに作ったものを出せるのは一部の人たちだけだった。

しかし今では個人でもいくらでも発信できる。

「嫌々やっているプロ」と「好きでしょうがない素人」が勝負したら素人が勝つことの方が断然多いのではなかろうか

とヨッピーさんは言うが、まさにそのとおりである。そのことをほとんどの”プロ”は認め、ある意味ありがたい環境で仕事ができていると感謝しなければいけない。

「なりたい」と「やりたい」の違い
実は自分は昔、映像を作りたかった。だが「こんなものが作りたい」というテーマがあったわけではなく、結局その道には進まなかった。進めなかった。

いや、そんなテーマなんて要らないという考えもあるだろう。たとえばCMなどの広告映像なら「こんなものが作りたい」は必要なくて「こんなふうに作りたい」という手法へのこだわりがあれば、どんな商材があっても自分色に染めることができるかもしれない(そうではないという考え方もあるだろうけど)。

それと同じように、自分は小説家にも憧れたことがある。だが小説という形で書きたいことがあるわけではない。こうした気持ちについてヨッピーさんは

「なりたい」という気持ちと「やりたい」という気持ちはまるで別物

などと喝破する。これはまさに自分のことを言われた気がしてグサリと心に刺さった。考えるにつけやはり、自分は「なりたかった」のであって「やりたかった」のではないのだろうな、と思う。

冷静な分析と温かいエールと

このほかにも、「日本人は目の前の戦術にばかり意識が行きがちで、戦略を考えるのが苦手」と冷静に分析したかと思いきや、「『私を見ている人がいる』という事実が貴方の背中を押してくれる」といったポジティブなエールも送ってくれる。

特にヨッピーさんが「行動する」というルールを設定しておくことの重要性を説く最後の章がとても心に残った。

たとえば土日の休みで何もしなかった日を自分は「ボツ日」と呼んでいる。元ネタはたしか江口寿史さんだったんじゃないかと思うが、そういう日は嫌悪感を強く覚える。休みの日の夕方に「あぁ、今日は何もしなかったな、何やってるんだ」と思うアレである(そんな心理をついたのがブックオフのCMで、あれはあれで実にうまいと思うが)。

そんな感情を知っているからこそ、「行動する」ことの大切さがよく分かる。ヨッピーさんは行動することの魅力について、「それで人生が変わる」とか大げさなことは言わない。

「人生が大きく開けるかわからないが、『自分の事が好きになる』」と締めくくるのがヨッピーさん流だ。分かりみしかない。

変わったふうに思われがちなライターさんが、自身の経験から築き上げた思想と哲学にあふれた、しかし読みやすい一冊である。