2024年4月14日日曜日

オードリーのラジオ番組も担当する作家の『トークの教室』、「トークなんてする機会がない」という人も読むといいかも

トークの教室

トークの教室: 「面白いトーク」はどのように生まれるのか』読了。オードリーをはじめとした多くの芸人、アイドルのラジオ番組を担当(?)してきた作家さんによる一冊。トークがうまくなるノウハウというより、それ以前の考え方を紹介していて、これを読んですぐトーク力が上がるというものではないが、気づきのきっかけになるのではないかと思う。

すべてのトークがウケるために行われるわけではない

自分はトークがうまいとは思っていない。前提情報を含めたいろいろな情報を詰め込みがちで、ポイントがボケしてしまうことがよくあると自覚している。

それでも、「何も話すことがない」ということは、あまりない。

話したくないとか、話すと面白いだろうけどTPOにあっていなくて話さないほうがいいかな、ということはあっても、何か話せと言われたら、たいていはちょっと考えれば話せる。

それは編集者として、常に面白いことを探しているからというのもあるし、「もしこういう場があれば、これはトークのネタになるな」としょっちゅう考えているからだ。とはいっても、実際に定期的にトークをする場なんてないのだけれど、そうしてネタのストックは罪上がっている。

また、それが「面白い」「ウケる」かどうかは分からない。トークの狙いが、自分が気づいたシブい視点に気づいてもらいたい、感心してもらいたい、というものもあるからで、トークの題材に興味をそもそも持てない人には、感心どころか関心すら持ってもらえないだろうことも自覚している。

ただいずれにせよ、話すネタなんていっぱいある。そして別にウケようとは思っていない(が、そこそこウケる自信はなぜかある)ので、この本のターゲットとはズレているのかもしれない。

だからなのか、本書を読んで、すごく参考になった、という感想は持たなかった。

ただ、つまらなかったわけではないし、参考になった部分もある。

たとえば、(トークをするなら)「出来事より心の動き」(を話せばいい)という視点だったり、(トークが)「上手な人は、上手に喋ることが面白いトークだと思ってしまう危険性がある」という指摘だったりは、共感を覚えた。

「話すことがない」なんてあり得ない

よく「話すことがない」という人がいるが、そんなはずがない。映画やドラマのテーマになるような大きな出来事はなくても、生きていれば何かしら出来事や気づきはあるはずで、それがトークのネタになると気づいていないだけだ。

自分がこう思うのは、取材やインタビューなどで話を聞くときに、聞き手としての自分の力量のなさによるところが大きいのだろうけれど、全然いい話がかえってこないことがあるからだ。

そもそも取材、インタビューをお願いする時点で、インタビュアーとしては何かしら話すことがあると期待しているし、(時には根本的な見込み違いということもあるだろうけれど)きっと話すことはあるはずだ。

にもかかわらず、いい答えが出てこないのは、「どういう話をして欲しいと期待されているか」「どういう話が喜ばれるか」に気づいていない、自分や自分がしていること・かかわったことを客観的に見て評価ができていないだけだ。

これは本当にもったいないと思う。自分が取材者・インタビュアーとして立ち会っていたらすごくはがゆいだろうし、一読者・視聴者として誰かのそういうインタビューやトークを見聞きしたとすると、これまたもったいないと思うのと同時に、その時間を損したなとすら思う。

これは別にメディアに登場するような人にだけ言えることではないと思う。友人や知人、家族や親せきなどと話すとき、はたまた見ず知らずの人とでも何かちょっと話すときに、トークはできたほうがコミュニケーションがうまくとれると思うからだ。

そういう意味では、トークという名のちょっとしたプレゼンは、誰もができたほうがいいので、「自分は人前で話す機会がないから」とこの手の本を遠ざけずに、読んでみるといいと思った。

紙上トークレッスンは面白い

また本書では、芸人さんや学生さんを対象に、トークアイデアのブラッシュアップ(レッスン)を紙上再現しており、これは面白かった。

藤井氏は、ラジオ番組の前に、MCの芸人さんの壁打ち相手をたくさんしているという。要は、MCの芸人さんがトークで何を話すかを整理するために、最近あったことや感じたことなどを藤井氏に話して、どこが面白くなりそうか、どういう情報を入れるといいか、という気付きを雑談の中で与えるというものだ。

それを実際に本書で再現しているのだけれど、ブラッシュアップの実験台(?)になった3人は3人とも、トークがうまくなりたいというニーズがあって、具体的なネタを持ってきており、それに対して実践的なアドバイスをしていて、ところどころで「なるほどな」と思わされた。

押し付けがましくない内容

本書の内容では、終盤に出てきたトークバルーンの比喩はちょっと自分にはしっくりこなかった。

また、全体的に、分かりやすく伝わりやすい断言がないし、「こうすればできるようになる」みたいな安直なTO DOの明示がない。

それは著者のおしつけがましくない、控えめなスタンスがあらわれているとも言えるし、そもそも(トークがうまくなることが)そんな簡単なモノではないことは分かっているので、そういうトーンになっていることに対して、自分は否定的な感想は持っていない。

しかし、それならもっと細かなディテールをたくさん語ってもらえるとありがたいなと思った(紙幅の都合もあって難しかったかもしれないが)。

いずれにせよ、「これをやれば今日からトークがうまくなる」というテクニックの話ではなく、それ以前のマインドセット、考え方の部分で気付きを与える一冊なので、日ごろネタを収集したり、トークするならこうやって喋ろうなんて考えたりはしていないけれど、人前で話すのが苦手な人、トークが得意ではないと思っている人は、読んでみるといいのではないかと思った。