2013年5月2日木曜日

素人デザイナーとプロを分かつもの


「仕事ができる」というのは、クライアントが抱える本質的な課題を見抜くための、またはクライアントが望む状態を生み出すためのソリューションを提供できるということだと思う。

 その意味では、肩書きなど関係なく、ディレクターだろうかデザイナーだろうがプログラマだろうが、プロジェクトを成功に導く鍵、ポイントを見つけて実現できることこそが重要だ。だからこれは単なる偏見なのだが、数ある職種の中でも「デザイナー」という職種はとても奥深いと思う。
 一般にデザイナーと聞けば、「カッコいい見た目の何かをつくる仕事」というイメージを持たれるかもしれないが、その仕事の本質は、クライアントが持つ課題を「デザインする」ことで解決に導くことだ。ここでいう「デザインする」とは、単にデザイン系のソフトを使って紙やPC画面で何かを作ることではない。デザインには意味があるから(というより、なければいけない)、「何となくカッコいいから」という理由で、色や形を選んではいけない。そのチョイスの意図が伝わらないこともあるが、それはそのデザインに込めた意味が間違っているか、意味が伝わりにくい見せ方をしているからであって、「赤がはやっているから赤にする」とか「流行の形だから」とかいうのは間違っていると思う(選んだきっかけがそういう理由だったとしても、後付けであってもロジックは必要だ)。しっかりと意味を持ったデザインワークをつくることで、目的を達成させられるのがプロのデザイナーだ。

 と、この手の記事は過去にも書いたことがあるのだが、それくらい「デザインする」ということの奥深さを、デザイナーという職種をリスペクトしている。自分が携わっている「編集する」という仕事も奥深く、難しく、リスペクトに値するものだと思うが、自分がデザイナーではないだけに畏敬の念は強い(また、自分のイメージではデザイナーのほうがより「手を動かす感覚」が強く、現場に近い感じ、何と言うか「クリエイター」に近いイメージがある)。

 ところで自分は社会人学生として通った学校やデジハリでデザイン系ソフトの使い方を習い、個人的にサイトを作ったりしたので、一応Adobeの印刷系、ウェブ系のソフトは使える。なのでデザイナーのまねごとはでき、ビジネスクオリティでなければちょっとしたものはつくれるが、が、あくまで素人レベルだ。デザイナーの足下にも及ばないと思っている。

 小さな会社や組織だと、パンフレットや小冊子を予算の都合で自社で作ることがある。作った本人はそれなりに満足しているのかもしれないが、見てられないものが結構ある。学生がつくったものにも同じことがいえる。後者はまぁ、微笑ましいともいえるが、本人がどれだけ「見てられないものであること」に気づいているのか聞きたいと思うことがある(この感覚はデザインワークだけでなく、文章についても同じようなことがいえると思う)。

 プロと素人のデザインワークのもっとも大きな違い、というかセンスの分かりやすい見極めの基準がある。

 それは「フォントの使い方」だ。

 これはだいてい一見して分かる。ちょっとしたグラフィックデザインから、エディトリアル、ウェブ……なんだってそうだ。

「これは素人がつくっている」「このデザイナーはうまい」

 もちろん自分なりの「うまいー下手」の判断基準なのだが、これは「好きー嫌い」の分かれ目ではない。「ちゃんとデザインの修行を積んでいるかどうか」「センスがあるかどうか」を見極めるポイントだ。
 自分にはその「フォントのチョイス」のセンスがないので、いつも苦労するし、だいたい後悔する。直してもらえるなら直してほしいといつも思う(が、自分がデザインする時点でデザイナーに頼めないものである訳だから、叶わない)。

 どういうフォントがいいかは、アウトプットの目的や場面に寄るし、誰かを批判したい訳ではないので具体的な事例を出すことは避けるが、このことはデザイナーでなくても、デザインワークを作らないという人でも頭の片隅にとどめておいて損はないと思う。
 たとえば企画書やプレゼン資料をつくるとき、子どもの通う保育園や学校に寄せ書きをつくるとき、勉強会やサークルなどにプロフィールをつくって出すとき……デザイン系のソフトではなくても、ワードやパワポなどで何かしら他人の目に触れるもの(れっきとした「デザインワーク」だと思う)をつくることはあると思う。

(ただ、パッと見て「カッコいい」と思ったフォントでも、「よく意味を考えたらおかしい」ということもある。分かりやすい例を挙げると、クールなフォントを使った映像作品のポスターがあったとして、カッコいい仕上がりになっていたとしても、その映像作品がクールというよりハートウォーミングな内容なのだとしたら、ミスリードを生んでいるそのデザインワークはいいものとは必ずしも言えない)。

 もしこれを読んで少しでも「なるほど」と思ったら、身の回りや街角、オフィスで目に入った何か(何でもいい)を「フォントの使い方はどうか」という視点で見てもらいたい。「なぜこれを使ったんだろう」と考えると結構面白いと思う。