2022年2月3日木曜日

リアクションしかできないと議論はできない。リスクをとってスタンスをとること――「自分の意見で生きていこう」(ちきりん著)


ちきりんさんの『自分の意見で生きていこう――「正解のない問題」に答えを出せる4つのステップ』読了。まさに「誰かのアクションへのリアクションばっかじゃなく自分で考えてリスク覚悟でスタンスをとれ。話はそれからだ」という話。

そういう考え方になじみがある(と思っている)人とっては「何を当たり前のことを」と思われることかもしれないが、いやいや、徹底してできてる人はそう多くないはずで、一端のビジネスパーソンであっても一度目を通す価値はある。

乱暴に主張をまとめると

あらためて、本書の主張を簡単にまとめると……

反応と意見は違う、意見に正解も不正解もない、そもそも一つの正解がないことを考え議論するためには意見を持つこと。意見を持つには考えること。

というもの。

こうした意見をしっかり一冊にまとめあげるあたり(シリーズとして最初から計画されていたとはいえ)さぞクソリプに辟易とさせられているのだろう。

クソリプとは何か 私たちが必要な情報とは何か

ところでそのクソリプについて、本書では「(聞いた人が)結論を変えないどうでもいい情報」(カッコ内・当ブログ筆者)と紹介・定義していて、「なるほど」とも思っただのが、まさにその「情報」についても整理されていて役に立ったのでまとめておく。

ちきりんさんは、世の中には「正確だが無意味な情報が存在する」と指摘し、それは専門家でもない人同士の議論(またはその前提となる「考えること」)には意味がないと述べている。

その例として、尊厳死に関するスタンスを述べたときに薬剤名を間違えていたという本人の過去の例を挙げている。そこでちきりんさんは、その薬剤名がなんであれ自分の尊厳死に対する考え方は変わらないということが大事なのであって、そこまで詳細な情報の正確性を求めるのは専門家でいいと解説している。

この表は本書からの引用。

 詳細まで正確な情報厳密には正確でない情報 
意見を変えうる情報●▽●一般の人に重要な情報
意見を変えない情報  
 ▽専門家に重要な情報  

つまり尊厳死の例でいう正しい薬剤名は、詳細まで正確だが意見を変えない情報――4つのセルで言うと左下――にあたるわけだ。

縦割り発想の弊害はどこででも生まれる

このほかにも感心させられた意見、思考が整理できた説明があったので備忘のために列記しておきたい。
  • 仲間に求められるのは意見である
  • ネガティブな反応は賢そうに見える(だけ)
  • リーダーシップの第一歩は意見を持つこと
  • 縦割り発想には弊害がある
いずれも「分かる分かる」と共感する意見・スタンス。特に「縦割り発想」については悩ましく感じることがよくある。

自分の仕事に置き換えていえば、別の部署が担当をしているメディアでも、自分が「おかしい」と思ったら言うべきだと思っているし、逆に自分の担当メディアについてよその部署のメンバーから指摘や意見・提案があってもいいと思っている。「自分の担当じゃないから僭越だ、恐縮だ、申し訳ない」と思う必要はない。

読者のため、メディアそのもののためになるのだから。そもそも部署は違っても同じ会社でもあるわけだし、意見はいうべきだ。

しかし、ここで難しいのは、のべつ幕なしに意見を言えばいいというものでもないということだ。

たとえば自分の仕事が最低限ちゃんとできてもいないのに他人の仕事に口出しをするのは順序が違うし、意見を誰かに述べるのは、相手(聞き手)の時間をとるわけなので、それなりにしっかりと調べて、考えてからモノをいうべきだろう。

だが、そう言い始めると、いつまでたって「自分なんかは……」と考えて躊躇する人ばかりになってしまいそうではある。

このあたりは、発言・提案する内容の正確性・正しさの問題だけではなく、相手との関係性やコミュニケーション、人間関係の問題もからみそうではある。

しかし、それを差し引いてなお、「言うべきは言う」そして、自分がそう思っているからこそ「言われるべきは聞き入れる」ことも大事だ。

生きづらい時代になった理由

ちきりんさんはまた「生きづらさ」が世をおおっている現状を憂い、その根源的問題として「学校的価値観」を指摘している。生きづらさの理由として橘玲さんはリベラル化とグローバル化の進展を挙げているが、ちきりんさんの「学校的価値観」といういかにもドメスティックな理由にも深く納得させられた。

どちらが正しいとか、ちきりんさんが橘さんと意見が違うということではないだろう。あくまで、問題を指摘して考えさせる上での著書でのアプローチには違いがあるというだけの話。


2022年1月30日日曜日

『金融サービスの未来』感想――「顧客が損しても儲かる」から「顧客を儲けさせてはじめて儲かる」へ


金融サービスの未来: 社会的責任を問う (岩波新書 新赤版 1904)』(新保恵志著)は著者が元銀行員(日本開発銀行→住友信託銀行、いずれも入行当時)だけあって、銀行に対する新しい在り方の提言は具体的かつ実践的に感じた。

ここが変だよ日本の銀行

特に手数料や金利について消費者、ユーザーの視点からおかしいと思われることを指摘し、「こうあるべきだ」という分かりやすい提言をしている。

特になるほどと思ったのは次のような箇所だ。

かつて銀行がよく売った元本保証型の一時払い変額年金保険は、売った時点で手数料がひかれたマイナスからのスタートとなるにもかかわらず、そうした説明が不十分であること。

投信の手数料については、銀行は販売手数料を顧客でなく投信会社など販売を委託した主体からとるべきであること、信託報酬や運用手数料は基準価額が最高を更新したときにだけ払ってもらうようにすべきこと。

たとえば銀行の普通預金金利はどこも横並び――メガとネットバンクでは異なるが、競合同士(メガ同士、地銀同士など)ではだいたい同じ――だが、信用リスクが高い銀行に預けたら高い金利をつけるべきこと。

銀行がお金を貸すときに保証を求めるなら、保証協会の費用はお金の借主に負担させるべきではないこと。

いずれも納得だった。

手数料のあり方 すなわちビジネスのあり方そのものを見直すべき時期では

特に手数料については、銀行のみならず金融業界がそのあり方を見直すべき時期なのではないかと思う。

金融商品を販売することで(売買するたびに)手数料を受け取っているから、証券会社が顧客に不要な売買を繰り返させたりする。売ってしまえば後のことはどうでもいい「売ったもん勝ち」の営業がはびこってしまう。顧客が損しても売る側は得をとっているから信用されない。

投信の運用もそうで、基準価額がクソ下がってるのに手数料とるから「おかしい」と思われるわけで、上で紹介したように「成果が出たら払ってもらえる」ということにすればいい。

だからといって、「販売手数料をなくしたらロビンフッドのような形になって、ゲームストップ株のような問題が再発する」ということでもないはず。

顧客が損したら売った側も損しろとは言わないが、得はしないようにすべきなのかもしれない。少なくとも金融機関のトップのクソ高い報酬はいつまでも許容され続けることはないような気がする。

2021年1月20日水曜日

エンリケさんの新刊『億稼ぐ接客術』感想──成功者は魔法が使えるわけではない

最近、エンリケさんをテレビで観て知り、「エンリケって航海王子かよ笑笑」とか思いながら観たのだが、思いのほか面白い人で感心した。そしてその数日後、田端さんが著書を勧めているらしいことをネットで知り、『結局、賢く生きるより素直なバカが成功する 凡人が、14年間の実践で身につけた億稼ぐ接客術』(講談社)を買って読んでみた。

結論からいうと、私の学びはごく陳腐。「成功には秘策はなく、誰もが当たり前だと思う徹底してやりきるしかない」ということだ。

2021年1月2日土曜日

2020年に観て面白かった映画(配信含む)──ドキュメンタリーと韓国映画の面白さを再認識

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2020年に映画館で観た作品は12本だったが、配信では115本観た。新作ばかりではないし、昔に観た作品の再視聴もあるが、115本のうち面白かったもの、印象的だったものを振り返っておきたい。ただ映画館で観た11本についてはこちらにもう書いたので割愛。

2020年12月31日木曜日

2020年に映画館でみた12作の感想──パラサイト、鬼滅の刃、プリキュア、TENET、新解釈三國志ほか【訂正あり】

 

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2020年の映画業界は、コロナによる閉鎖・作品延期の一方で、「鬼滅」が歴代興収1位になるという、すさまじい1年だったはず。そんな中で自分は映画館で11作品12作品観賞賞した。2019年はちょうど30作品だったので、およそ3分の1になってしまった。12作品の感想まとめ(11作ではなく12作でした)。

2020年12月30日水曜日

運動しながら本が読めたら……Audibleとaudiobookを比較してみた


© Amazon


AmazonのAudibleとオトバンクのAudiobookを試してみた。リモートワークがメインになって電車に乗る機会が減り、本を読む時間が減ったからだ。似ているようで異なるサービスを比較してみた。

2019年11月25日月曜日

感想に困る映画「アナと雪の女王2」



「アナと雪の女王2」は感想に困る映画だ。

正直、前作と比べるとエンターテインメントとしてはパワーダウンしていると思う。

たとえば楽曲。破壊力ある「Let it Go」を含む前作の楽曲と比べ、今回は「Into the Unknown」は聴きごたえもありキャッチィでもあったが、ほかはそうでもなかった。

ストーリーも、前作は、すごく乱暴にいえば、自分のチカラに嫌気がさしたエルサが皆から逃げ、それをアナが家族の愛を示して連れて帰るだけだった。

今回はなぜエルサが魔法をつかえるようになったのか、その理由・背景が描かれるのだが、両親の話やその上の世代、街の成り立ちなども含めて紹介され、また登場人物たちが行く場所がどんどん変わるため、正直複雑だ。

でも、だからこそ「すごく面白い」とは思わなかったのだけれど、「また観てみたいな」という気持ちが芽生えたような気がする。

いい面ももちろんある。たとえば、あいかわらず映像は美しい。エルサの造形は前回よりももっとエロくなってないか?と思うが、水や氷、岩や葉、森、霧など自然の表現も素晴らしい。

終わり方、決着のさせ方もなかなか良かったと思う。観ていてエルサが街の中で行きていける気がしなかったから。

途中に差し込まれたオラフの状況説明もなかなかよかった(ただ新キャラのリザード?は余計だった気がする)。

前作では吹き替え版も松たかこさん、神田沙也加さんが姉妹を演じて人気だったというから、今度は日本語吹き替え版も観てみたいとも思う(おそらく配信されてからになると思うが)。

ということで、filmarksでは評点3.2(また観てみたいとは思う作品)。

しかし、このところディズニー作品はなんというか、前作アナ雪のようなメガヒットが出せていないのではないだろうか。アラジン、ライオンキングの実写版と、想像・期待を超える作品ではなかったように思う(マレフィセント2は観ていない)。

今ちょっと調べたら、アナ雪以降では『ベイマックス』(2014年)『ズートピア』(2016年)『モアナと伝説の海』(2017年)『シュガー・ラッシュ:オンライン』(2018年)なのか……あれ?意外と……。