2014年1月22日水曜日

映画「恋するミナミ」の女性たちに恋して

© FLY ME TO MINAMI ― 恋するミナミ ―

映画「恋するミナミ」を観た。日中韓3カ国の男女がフツーに出会って恋をする映画で、いいお話、良作なのだけれど、興行的にはあまり注目されなかった。「日本はまだこの”フツー”には至ってないんだな」と思わずにいられなかった。


本作は「新アジア映画」をうたっている。舞台は大阪、主演は日本、中国、韓国出身で、言葉も複数。製作はシンガポールと日本で、監督はマレーシア出身で大阪に留学経験があるという。話の軸となるのは、香港の女性ファッションエディターと日本人男性フォトグラファー、韓国人フライトアテンダントとコリアンタウンで店を経営する日本人男性(既婚)の2つの恋の行方で、2012年の年末から13年の年始までの数日間、大阪・ミナミを舞台にしている。いわゆる“国際的”、“グローバル”な作品だ。

冒頭、”フツー”と書いたのは、国籍を気にせずにという意味。山手線に乗れば中国語や韓国語を聞かない日はないくらい、特に中韓の人は多いように感じるけれど、会社や学校で机を並べない限りは交わることはない。皆さんも、日常的に中国語や韓国語を耳にすることはあっても、彼・彼女たちと話す機会はそうそうないのでは。

本作のように、日本人と外国人が”フツー”に出会って恋をして別れて……という関係が、説明なく描かれるようになるには、そうした交流が日常的に、フツーになっていないと難しいだろう。「好きな俳優は?」と聞かれて、中国人や韓国人俳優を挙げる人は(韓流ドラマファンなど以外で)ほとんどいないのではないか。日本の民放地上波ゴールデンタイムで放映されるドラマの主演は日本人ばかりだ。「好きな俳優はシェリーン・ウォン」「ペク・ソルアが日曜9時6chで主演する」なんてことがフツーになってもいいのではないだろうか……。

本作の特徴は、いわゆる「グローバル」なところにあるが、そんな「グローバル」なんて、じきに特徴になり得なくなるだろう。「主演が中国人」「韓国人女性俳優が出ている」はウリではなくなる。それがフツーになっていくのだ。現状では日本(日本人の意識)がそこに至っていないからこそ、この映画が生まれたのだとはいえるのだが。

けれど、国籍とか言葉とかその他、七面倒くさい事情を一気に飛び越えさせるのが恋なのかもしれない。

……そう思ったのは、観終わった後、シェリーン、ソルアと仲良くなりたくて、中国語、韓国語を勉強したくなったからだったw(2人とも可愛くて甲乙つけがたい)


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ところで、自分が観たのは池袋のシネマ・ロサで、期間終了直前の駆け込みだった。その日は終演後にリム・カーワイ監督のトーク(質問)があって、これが面白かった。監督が「何でも聞いて」というので、2つ質問をさせてもらったので、簡単に紹介したい。

最初の質問はカメラワークについて。本編を観ていて、ピントやカメラの位置、動き方がちょっと他の作品とは違って独特に感じられたので、撮影について監督がどれくらい関わったのか(カメラ位置まで綿密に決めたのか、撮影監督任せだったのか)聞いてみた。

本作はキヤノンのEOS 5Dで撮影したとのこと。これは動画も撮影できるデジタル一眼レフで、ピントを合わせるのが難しい。ちょっと変わった感じなのもの納得がいった。カメラのアングルや位置は監督が綿密に決めて指示したそうで、「撮影監督は自分を出しづらかったかもしれない」とのことだった。また5Dを街なかで構えても通行人にはビデオを撮っていることが分からないので、意識させることがなかったのが良かったとのことだった。このほかにも、シーンが変わるところはドリーでカメラを移動させた意図や、俯瞰のカットへのこだわりなどの話もあった。監督の話を聞いてみて、カメラの使い方が、異国に来た外国人の不安や外国人同士の交流のときに生まれる不安な気持ちを現しているのだなと気づかされた(「ロスト・イン・トランスレーション」が好きな人にはいいかもしれない)。


もう一つの質問は最後のシーンについて。
詳しく書くとネタバレになるので曖昧にしておくが、シェリーンが香港に帰った後のことで、不遜にも僕は「あれは必要だったんですか?(笑)」と聞いてみた。監督は嫌な顔一つせずに、「あのシーンはなくても成立するし、自分はそういう余裕のある●●しい終わり方も好きだけれど、お客さんに希望を与えたかったから、敢えて入れた」と説明してくれた。なるほどなるほど。

パンフレットにサインまでしてもらって満足して帰りました。監督ありがとうございました。



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今回、昨秋に取材でお世話になった加藤順彦さんが製作総指揮ということで興味が湧いて観に行ったのだが、知る機会を得られてラッキーだった。

でも、改めて映画の入場料金はホント弾力化したほうがいいんじゃないかと思った。

最近は多少違ってきているけれど、映画の入場料金はほとんどが大人一人1800円、前売り1300円、映画の日などが1000円。たとえば本作は全編フル3DCGとかIMAXとかじゃないし、超有名ハリウッドスターが出ているわけでもないから、分が悪い。
僕は本作を観るのに1700円払った。観終わった今だから1700円出してよかったと思うけど、観る前に払う値段としては若干ハードルが高いと思う。たとえば1000円くらいなら、もっと観る人はいるだろうし、自分も2回目観に行ってもいいなと思えるのだけれど……と改めて思った。