2015年1月31日土曜日

成功するクリエイターのあり方――軍地彩弓さん、千原徹也さん対談を聴いて



軍地彩弓さん千原徹也さんの対談を聴いたら、めちゃめちゃ面白かった。


軍地さんは、ファッションにそう詳しいわけではない僕でも知っている方で、今回のお目当て。『ViVi』『GLAMOROUS』、『VOGUE girl』など経て、いまは『NumeroTokyo』エディトリアル・ディレクター。沢尻エリカ主演のドラマ「ファーストクラス」のファッション監修をしたことでも知られている。

千原さんはクリエイティブディレクターとしてZUCCa25周年キャンペーン、新宿ルミネの広告やZoff、きゃりーぱみゅぱみゅ振袖ほか、フォトグラファー、アイドルのビジュアルプロデュースなどいろんなジャンルで活躍している。

対談はクリーク・アンド・リバー社主催の「東京会談」というイベントの第1回。


最初に投げかけられた「クリエイティブとは」的なテーマに対し、軍地さんは「売れないものはクリエイティブじゃない」と言い切った。ViViをやっていた経験からギャルの間では売れてるものがすべてだったとして、「そういうなかでやってきたので、『売れないものをコツコツと作ってます』というのは正面切ってクリエイティブをやってないという考えです」と明快に答えていた。

この潔さ。一気に引き込まれた。

ファッションに限らず、ものづくり、クリエイティブにかかわる人間は、「つくりたい」「生み出したい」という気持ちと一緒に「認められたい」という思い、願望も持っている(いや、承認欲求はたいていの人が持っているが、クリエイティブやろうという人は自意識がより強いと思う)。

だがそれはなかなかかなわない。だから「自分が作りたいものを作っていられればいい」という“言い訳”を唱えながら、認められない現実に目を背けてしまう。

そもそも自分がやりたいことをやり続けるには、認められなければいけない。千原さんが言うように、アート作品も、売れて人に見てもらって評価されてはじめてアート。売れなきゃ評価されないし、ご飯が食べられなければ続けていけない。千原さんは、「スタッフには『次の仕事の依頼がきてはじめて、その仕事が成功だったといえるんだよ』と言っている」という。

クリエイティブといっても、100%自分の好きにつくれるわけではない。クライアントからダメ出しを受けることは珍しくない。千原さんは「クライアントの言うことばかり聞いてしまうと、自分のクリエイティブが面白くなくなるのではないか(という危機感がある)」と吐露した。

軍地さんは、(クリエイティブで迷ったら)「たくさんの人が幸せになるほうが正しいと考えている」と述べた。もちろんクライアントから反対されることもあるが、そのときはクライアントに対して「こっちのほうがいい」と提案、説得すればいいと。

対談ではまた「成功するために必要なこと」も語られた。

ここでいう成功とは、業界で認められ、有名になること、お金を稼げることだ。

軍地さんは、成功する人に共通していることとして、誰に対して何を伝えたいかがはっきりしていて、(届けたい)「像」がハッキリしていることを挙げた。また自分がもっているもの、「看板」を出して、「個」を立てることができれば成功できるとも。

これこそが一番難しいことなのだろう。自分の個性や持ち味、特徴はなかなか自分で気づけないし、自分が指向する方向とは限らないからだ。もちろん、それに気づいたからといって、世界に受け入れられるとも限らない。

ソーシャルメディアの発達もあって、いまは世に出るまでのステップを踏まなくてもよくなってきている。インターネットの登場でそういう時代になったともいえるが、ツールの特性もあってかソーシャルによる拡散のほうが速く、大きいように思える。そんな今は、修行を何年もしてようやく一人前になって……ではなく、いいものを作ることができれば、修行なんてしていなくても海外で認められる。

 軍地さんもそう説明したうえで、若い人に問われることとして、「2回目ができるか」ということを指摘した。金星を1回あげて終わりではだめということで、「(若手棋士が)一度竜王を倒しても、2回目を倒せるかどうかということが重要」という。そして、「それをサポートしてあげるのが、上の仕事なのではと思う」とも話した。

 千原さんは自分が修行を経て今のポジションに至った経緯から、若い世代にも同じことを求めたいと思う反面、それを求めてはいけない時代になっているとも思うとも述べた。軍地さんも「若い人と交流していて思うのは、自分たち上の世代が、自分たちのやり方を押し付けていると、逆にこっちが若い世代にやられちゃう」と話している。

このほかにあったのは、ファッションも二極化していて中間が売れないという話。一番大変なのは109とかルミネとかの、中間層を狙ってるところで、そこの広告は大変だということ。昔は広告がある種の嘘をついていた(夢をみせていた)が、今はユーザーがクリエイティブもプライスも主導権をもってしまっていて、雑誌の存在意義が問われているとも。たとえば12800円のグレーのニットがあっても、「ユニクロの3000円のも質もいいし十分だよね」ってなっていると……。

ほかにも、千原さんが装苑の表紙、椎名林檎さんを出してロゴを赤と青にしたときの話や、

LUMINEの広告をやったとき、

矢沢栄吉さんのゴールドラッシュというアルバムを、許可をとって下敷きにしたら、ソーシャルでパクりといわれてショックだった話
など、笑ってしまうエピソードや裏話、ここには書けないこともいろいろと披露された。

軍地さん目当てで参加して、軍地さんのお話も期待以上によかったが、不勉強ながら存じ上げなかった千原さんもすっごく面白い方で、勉強にも刺激にもなった、大満足のイベントだった。