2023年12月3日日曜日

Netflix「サンクチュアリ‐聖域-」、面白くて一気見。ネットフリックス礼賛してていいのか……

サンクチュアリ -聖域-
© 2023 NETFLIX

Netflixで春に配信開始された角界(相撲界)を舞台にしたドラマシリーズ「サンクチュアリ-聖域‐」を少し前に観たときの感想です。なお8話ありますが面白くて一気見しました。

Netflixだから描けたのであろう闇

相撲界では昔から「部屋でのいじめ・かわいがり」「星を貸しあう八百長」などの存在が噂されてきましたが、こうしたことに触れられるのは、作ったのが外資のネットフリックスだったからではないでしょうか。相撲部屋のおかみさんによる枕示唆もあって、すごかった。

Amazonでも難しかったかもしれませんね。PrimeビデオでNHKオンデマンド売ってますから。

暴力や差別、LGBTQの扱いも含めてストレートで、ある意味”リアル”を徹底して描こうとしていて好感が持てました。タバコも吸うべき流れで登場人物がタバコ吸わない映画つくってる人たちは反省したほうがいい。

キャストもすごかった……特に余貴美子さんはエグい

主人公の一ノ瀬ワタルさんもよかったですが、染谷将太さん、余貴美子さん、松尾スズキさん、ピエール瀧さんあたりは毎度のことながらいい仕事をするなと思いました。

染谷将太さんといえば「みんな!エスパーだよ!」を思い出すのですが、まだ30歳でパートナーは菊地凛子さんなんですよね。これからはもっと世界的に活躍していく俳優さんでしょう。

余貴美子さんは主人公の母親役で、きれいなおしとやかな俳優さんというイメージでしたが、田舎のクソなビッチババァを演じて、「うわー、いそう」と思わされました。まさか余さんがあの役を演じるとは。

寺本莉緒ちゃんはちょっとビックリ。あまりグラビアで見なくなったので(おそらく仕事をセーブしてるんでしょう)、この子だれだっけ?セクシィ女優さんだっけ?と思い出せませんでした。

また仙頭敦子さんは久しぶりに見たなと思ったけど、なかなかエグイ役でしたね……

出演の力士たちは1年かけてカラダづくりをしたらしい

キャストについて驚かされたのは、力士たちは実際に時間をかけてカラダを大きくしたらしい、ということです。

当初、本作の制作チームは、劇中でキャスト陣を本物の力士に見せるために少なくとも体重120kg以上のキャストが必要だと考えたという。

そこで制作チームが相談を持ち掛けたのは、ハリウッドで肉体改造を専門的に扱うEnix Lifestyle社。CGや特殊メイクを使って痩せた体の俳優を精悍に見せるのではなく、時間をかけて俳優の体をビルドアップし、生身の肉体を活かすアプローチである。

キャスティングの条件は「1年間をこの作品の準備に費やすことができる、体重80kg以上の男性」と設定された。

その結果、身体の大きな俳優、芸人、元アスリートなどがオーディションの対象となった。

映画チャンネルより)

もともと大きい人たちもいるのでしょうが、1年以上かけて体重を実際に増やしたなんて……さすがNetflixという感じです。予算がなければ、デカい人たちから探すでしょうからね。

監督・プロデューサーたちの話も面白い

あの作品が生まれたきっかけについて、監督の江口カンさんが堀江貴文さんと一緒に出演したTOKYO FMの番組で話していました。

Netflixとの話は、プロデューサーが江口監督の初の劇場作品「ガチ星」を見たことがきっかけだそう。

そのプロデューサーは「全裸監督」も手掛けた坂本和隆さん(Netflixコンテンツ部門バイス・プレジデント)で、日経ビジネスオンラインでインタビュー記事が読めます(途中から要会員登録)。

「勝ち筋は明確」ビジネスとしての「サンクチュアリ」を製作者が語る(日経ビジネス)

面白いインタビューなので是非読んでみていただきたいですが、坂本さんのこの発言は、クリエイティブに関わる人なら、「うらやましい」とか「うちも負けないようがんばらないと」とか思わされるだろうなと思いました。

入り口から作品づくりに関わるということでいえば、Netflixには、幸いそういう能力を持つメンバーが今、本当に集まってきているんです。そして作品の制作機能といいますか、スタジオ機能の内製化というところにすごく注力しているので。そこは我々は今、日本一の環境を提示できるんじゃないかと思っています。

ただ、いい人材を集めて、予算を準備しても、面白い作品は作れないでしょう。日本(の会社)にも、いい人材はたくさんいますし、ネットフリックスほどでなくても、それなりに予算はかけられるはず。

でも、日本の会社では、忖度して作れなかったでしょう。きっと、相撲界の闇に迫るような作品の企画なんて、これまでたくさんあったはずですが、誰もが知っているといえるほどのインパクトを残した作品はないと思います。つまり、作れなかったわけです。

なぜ自分たちにこれは作れなかったのか?と自問すべきは……

この点については、サンクチュアリを観て「こんなの作りたかった~」と感じた映像制作者は、どんな理由や言い訳が思いつくとしても、一旦それはすべて横に置いて、「なんで自分に・自分たちに作れなかったのか?」「これでいいんだっけ?」と考えるべきだろうと思いました。

ただ、タイトルに書いたネットフリックスに負けるな、という言葉の意味は、何も「外資にドメが負けるのは嫌だ」ということではありません。

ネットフリックスがアメリカの企業だろうがどこの企業だろうが同じことです。同じクリエイターとして、いい作品をつくったライバルに負けないようにしっかり作っていかなければいけないし、作れる環境を整えなければいけない、ということです。

たしかに、作ったのが日本の会社だろうが海外の会社だろうが、消費者としては関係ありません。誰が作ろうと面白ければいいわけですから。

しかし、いいコンテンツを国内の会社がつくるのか、海外の会社がつくるのかは、会社の売り上げ、ひいては税収にもつながります。

もし日本の会社が作って海外で売れれば、それだけ日本の会社が潤います。でも本作については、それはない。

製作がネットフリックスだとしても、制作陣は監督、脚本家含めて日本人ばかりです。つまり、あんな面白い作品を作れるクリエイターが日本にいるわけです。

それなのに、日本の会社にはサンクチュアリは作れなかったのです。

ネットフリックス礼賛してていいのか

ここで思いだすのは、韓国の状況です。韓国はK-POPに限らず映画・ドラマコンテンツも世界中で評価されています。「パラサイト 半地下の家族」がオスカーを獲ったのも記憶に新しいところです。

そんな韓国でもネットフリックスは潤沢な資金を投下して作品を作らせて、世界中で配信して儲けていますが、「イカゲーム」の制作陣は、同作の成功の恩恵を受けていないそうです。このあたりは次の東洋経済の記事をはじめ、たくさんの分析・考察が出ています。

「イカゲーム」生みの親が全く稼げなかった裏事情 事情に疎く、Netflixと不利な条件で契約(東洋経済)

誰がお金を出しても、視聴者にとっては同じかもしれませんが、制作者にとっては違います。そして、制作者が作品の成功で報われなければ、継続して作り続けられません。

その意味ではやはり、国内のクリエイターの権利を守る仕組み、守れる会社、つまりは資金が必要なのです。

この点、流通(配信網)をおさえている会社が製造もするのは本当に強いなと思います。いい作品を作っても、届けられないとお金にならないですからね(Amazonが強いのもうなずけます)。

そして、この構図は映像業界・映像制作に限ったことではなく、ほかのあらゆるビジネス・クリエイティブでも同じことが言えるでしょう。

クリエイターレベルではともかく、会社レベル、国レベルでの競争を思うにつけ、「勝ち筋なんてあるのか?」と途方に暮れてしまいます。

お気に入り度 ★★★