2023年9月17日日曜日

めいろまさんの『激安ニッポン』感想 貧しくなった(これからもっとなる)日本でどう生きていくか

Twitter(現X)のMay_Roma(めいろま)さん、谷本真由美さんの新刊『激安ニッポン』を読みました。タイトルどおり、いかに日本が安い国になったかについて、各種のデータを交えて整理、海外と比較して、予想される未来について警鐘を鳴らした一冊です。

この「日本がいかに貧しい国になったか」というテーマについてそれなりに関心を持って書籍やネット記事などを読んできている人にとっては、そんなに驚きのない内容かもしれませんが、いろいろなデータをもとにしっかりと整理されているので、断片的な情報をまとめるのにもいいのではないかと思います。

ただ、どうしても日本にとって都合の悪い事実ばかりが突きつけられているので、反感を覚える人もいるでしょう。

「金持ちが100円ショップに行く」のはダメなのか

たとえば、日本では100円ショップのような店は誰でも使いますが、他の先進国では1ポンドショップや1ドルショップを使うのは「あまりお金がない階級の人々」であると指摘されていたり、「中古品が好きなのは日本人だけ」と述べられたりしています。

こうした点について、「それはそれでいいんじゃないの」と反論する人もいるでしょう。100円ショップの品の質がよいということかもしれないし、中古を使うということはモノを大切にするということと言えるかもしれないからです。

ただいずれにせよ、新品や高価なモノを「買わない」のではなく「買えない」日本人が増えていることは間違いないと思います(また、安くてそこそこのモノが手に入る状況を生み出していること=企業努力=が、日本全体を等しく貧しくする傾向にかえって拍車をかけている、という重要な指摘なのかもしれません)。

LCCが通勤手段になっている?

途中でちょっと「へー」と思ったのは、欧州ではLCCが出勤によく使われるようになっているということです。

たとえば物価が安いギリシャなどに住んでリモートで働き、出社しなければいけないときにLCCを使う、ということが珍しくなくなっているそうです。

このところ日本でもリモートワークが進み、首都圏に住むのではなく、地方に住んで時々(新幹線などで)東京の会社に出勤するという人は増えているようですが、外国に住んで飛行機で出勤という人は、まだ多くないのではないかと思います。

しかし、日本もイギリスと同じように島国ですし、よく考えたら日本でも似たようなことは可能ではないでしょうか。実際、日本は物価が安い国ではありますが、とはいえ国土も狭く不動産の価格はそれなりにします。このため、海外、たとえば日本からそう遠くない東南アジアなどの田舎に住めば、物価が高くなってきているとはいえ、食費など生活にかかるコストは抑えられるでしょう。

そう考えると、海外に住んでリモートワークして時々LCCで羽田に向かう、という生活スタイルも無理ではなさそうです。なぜそういうスタイルが広がらないかというと、障壁になっているのは、もしかしたら心理面なのかもしれません(そもそも、頭の中にそういう選択肢がない、ということ)。

ただここで不動産の価格がそれなりに高いと書きましたが、それでもお金持ちになった外国人にとっては日本の不動産は安いわけです。実際、あちこちで外国人が日本の不動産を買っているというニュースをよく見聞きします。

外国人が日本の不動産を買いまくっている理由には、土地の値段が(貧しくなった日本人にとっては高くても)急激に金持ちになった外国人にとっては十分安いということだけでなく、日本には外国人に土地を買わせないという制限がほとんどないという実態もあるようです。

私もそうした実態はなんとなく知っていて、不動産については何らかの規制は必要ではないかなと思っていたのですが、あまり実態を知らずに危機感を覚えたのは、むしろ「保険」の話でした。

コスパのいい日本の保険・福祉が外国人に狙われる?

日本には国民皆保険の制度があって、高くない負担割合で医療サービスが受けられます。これが世界的にみても素晴らしいものなのだとはよく言われます(たとえばアメリカとかでは無保険だったり、保険料がすごく高額だったりするといいますよね)。

私もそれくらいのことは知っていましたが、谷本さんは「日本の福祉にたかる外国人たち」として、日本の医療保険の加入条件がきわめて緩いことについて指摘、コスパのいい日本の福祉制度の恩恵を受けるために日本に来ている外国人が多いこと、出産一時金の不正受給もあることを挙げ、危険な将来像を提示しています。

「基本的に、国民健康保険も民間の保険もその居住している国で治療を受けたり出産したりしなければ費用は出ないことになっています。ところが日本の場合、海外で勉強したり働いたりする日本人のために、国民健康保険の制度を適用してきたのですが、その制度を外国人も使えるわけです。これは他国から見ると大変驚くべき仕組みです」

たとえば日本の国民健康保険は、以前は1年以上滞在していないと入れなかったのが、2012年からは3ヵ月以上滞在していれば入れるようになっているそうです。実際に外国籍で国保に加入している人は増えているといい、現時点では、多くが現役世代のようですが、外国人高齢者も増えていくでしょう。

医療保険制度には余裕があるわけではないだろうに、加入条件を緩くし過ぎるのは、将来を考えると不安ですよね。

このほか障害者福祉、高齢者福祉の制度もコスパがいいとしてこう述べています。

「医療制度のように、いずれは安くて質の高い介護サービスを求めて、海外の人がやってくるようになるでしょう」

ただでさえ介護の現場は人手不足、ブラック労働なのに、介護サービスの受益を目的として来日した、お金のある外国人ばかりになると考えると、ちょっと良くない未来のように感じます。

「日本人はいいけど外国人はダメ」はいいのか?

とはいえ、医療や介護の加入条件を厳しくすると、日本人でサービスが受けられなくなる人も増えてしまうかもしれません。

そこで気づかされるのは、「日本人がそうしたサービスを受けられなくなるのはダメだけど、外国人ならいいのか」という問題です。そしてさらに、「それでは、そもそも日本人とは何なのか」ということです。

日本という国が好きで外国から移住して、それこそ定住・永住しようとしている外国人もいるでしょう。ただ一方で、いまだ日本よりも貧しい国や地域から日本に外貨の獲得だけのために来ている外国人もいて、そうした人たちは、それなりに稼いで自国に帰っていくでしょう。

そうしたことを踏まえて、外国から来た人たちを一律に考えていいのでしょうか?

ただこのあたりについては、本書では論じられていません。なぜなら(おそらく)本書の目的が、いわゆる典型的、一般的な”日本人”に対して警鐘を鳴らすことだろうからです。

これは言うまでもないことですが、要は「どこに線を引くか」ということです。やみくもに受け入れるわけにはいかないわけですから。すると、国籍、出入国制度、在留制度、さらには課税・徴税の仕組みなどの問題と言えるでしょう。

少子高齢化、人口減少が始まっている日本にとっては、労働者・納税者を増やす必要もあります。保険や介護の制度・サービスを受けるだけでなく、(保険料の納付に限らず)相応の負担もしてくれる頭数(あたまかず)を増やさないといけないわけです。

この点については、今後は政治でも大きなイシューになっていくのでしょう。というか、議論せざるを得ないでしょう。

ただこの問題をどうするかということより、「これから今以上に貧しくなっていく日本で自分がどう生きていくか」のほうが、少なくとも本書を手に取るであろう、典型的、一般的な”日本人”には重要と言えるでしょう。

本書は読むのが早い人であれば、1日くらいで読めるので、こうした議論に関心がある人や、将来の日本に対して漠然と、漫然と不安を抱いている人は、読んでみるといいかもしれません。