2017年7月6日木曜日

ゴースト・イン・ザ・シェルは2ができるのか? キングコングが新作で大きくなった理由

モノづくりをするときはいきなり金の話ではなく、誰が、どんなものをつくるかが先にあるべき--。

それが正しいのかどうか分からないが、少なくとも日本のIP(知的財産)をつかってハリウッドで映画をつくるときの流れはそうなるという。


これはデジタルハリウッド大学で行われた講義「ゴースト・イン・ザ・シェルに見る 日本のIP(知的財産)を基にしたハリウッドでの映画製作の意義と将来性」で、講師の藤村哲也氏が話していた内容だ。藤村氏はギャガを設立した映像業界の大物だそうだ。

ゴースト・イン・ザ・シェルの場合、原作はご存じ士郎正宗氏だが、講談社が権利交渉の窓口になっている。今回の映画化の場合、藤村氏が講談社側と話すとき、いきなり「いくらで買いたい」「いくらかかる」という話はせず、まずは「プロデューサー紹介」から始めたという。次に、“どんなものを作る”という「クリエイティブビジョン提示」となり、最後に「経済条件の提示・交渉」という流れなのだそうだ。

IPの権利を持つ原作者は映像化作品にどれくらいクチを出せるのか?


そして日本のIP権利者と円滑に契約を交わす上のでポイントは2点あるといい、それは、「クリエイティブコントロール」と「権利の返還(リバージョン)」だという。

まず「クリエイティブコントロール」とは、IP権利者に最終承認権はないものの、脚本・監督・主要キャストに対するコンサルテーション権は認められるということ。そして意見を受けた側は誠意を持って対応するという内容だそうだ。

たしかに作家・原作者の中には、映像化作品に対して強いこだわりを持つ人もいるだろうが、さんざん時間とお金をかけてつくったのに、最後に原作者からダメといわれたら公開できない、というようでは制作陣は困ってしまう。だから努力義務ということにしているのだろう。

次に「権利の返還」とは、たとえば「契約締結後x年以内に撮影が開始されなければ、権利者に許諾権利が返還される」という仕組みだそうだ。また同様に、一本目が公開された後y年以内に続編の撮影が開始されなければ、許諾権利が返還されるというものらしい。

またハリウッドでは権利は買うというイメージだそうだが(オプション・パーチャス契約というものがあるらしい)、日本では「ライセンスする(貸す)」。そこに感覚の違いが見て取れる気がした。

藤村氏はまた、今後日本が世界でもIP大国として優位に立てると主張した。その理由は2つある。

まず「マンガとアニメの融合」だ。つまり日本では、マンガで売れるとアニメ化される仕組みができあがっていて、そのアニメが海外に出て行って価値が認められる、という流れになっている。そしてNetflixをはじめとした世界中に映像を配信できる(したい)会社・サービスがあり、日本ではマンガ・アニメは実にたくさん生まれている。

2つ目の理由が「中国市場の急速な拡大」だ。既に中国の映画の興行市場は日本を抜いており、と数年で米国を抜くのではないかといわれているそうだ。

そして中国では日本のアニメが人気を集めている。「STAND BY ME ドラえもん」しかり「君の名は。」しかり、100億円の売上げを上げているという。

映像制作の中心が米国ハリウッドであったとしても、たとえば米国で人気のアメコミを映画にするより、中国という世界最大の市場でウケる日本のアニメやゲーム原作の映画をつくったほうが、インターナショナル市場で勝てるということなのだろう。

「ゴースト・イン・ザ・シェル2をつくりたい」


この日の講演では質疑応答もあり、そこで語られた話で興味深かったのは、まず企画製作にかかる費用について。誰が出すのかという質問に対し、「ケースバイケース」と藤村氏はしながらも、出資してもらう場合もあると述べた。そして、映画になるかどうかもまだ分からない段階での出資は非常にリスクが高いので、プロジェクトが進めば「5割くらいつけて戻すのが相場」とのことだった。

また本作のプロデューサーであるアヴィ・アラッド氏(元マーベルスタジオ会長)は、続編をつくりたいと考えていて、本作を「ゴースト・イン・ザ・シェルというIPを世界に紹介するつもりでつくった」という考えらしいこと(とはいえ興行収入的には厳しかったので、続編ができるかどうかは分からないという)。

そして、「何を原作としたのか」という質問についての回答も興味深かった。本作を劇場でご覧になった方は分かると思うが、押井GITSの影響を強く受けている。となれば、漫画原作は士郎氏であり、同氏や講談社と話がついていたとしても、それでいいのか?という疑問は頭に浮かぶ。

この点について藤村氏は、まず原作が3巻しか出ていないこと、プロダクションI.Gが素晴らしいアニメ作品として展開させていること、8人の脚本ライター陣(クレジットは3人)を含むクリエイター陣が押井GITSに影響されているため次第に似たことなどを紹介し、アニメのほうの製作委員会からも許諾をとったというエピソードが披露された。

質疑応答のときではないが、この日ほかに興味深かった内容としては、今後映画化が予定されている日本のIPのラインアップについて触れられた際の話。既に公開が決まっているものとして「デスノート」(ネットフリックス)や「銃夢」「ゴジラ」などともに「ゴジラVSコング」が挙げられた。

コングとは「キングコング」のことで、最近も「キングコング:髑髏島の巨神」が公開されて、なかなかのヒットになったようだ。自分も映画館で見たのだが、キングコングがエンパイアステートビルにはとうてい登れないくらい大きくなっていたことの驚いた。だがこれは「ゴジラ」と戦わせるためにあのサイズになったのではないかと言われているそうだ。たしかにWikipediaをみても、(レジェンダリー・ピクチャーズが)制作した「GODZILLA ゴジラ」と世界観が統合されている、と書かれている。なんだか無茶だな、と思う一方で、そういう発想もアリかなと思った(少なくともゴジラVSエヴァよりはいい気が)。