2017年4月24日月曜日

Webメディア全盛、出版不況時代にライターが食っていくため、コラム・エッセイを書けるようになるために必要なこと

近著『電通と博報堂は何をしているのか (星海社新書)』や現代メディアの記事「「これまでの記事を撤回したい…」沖縄で私はモノカキ廃業を覚悟した」など、最近の活動も高く評価されている中川淳一郎さんがB&Bでトークイベントに登壇されるというので行ってきた。有料イベントなので全部書いちゃまずいだろうし、ぶっちゃけトークすぎてて書けないこともあるが、とてもいい内容だったので、備忘も兼ねてレポート。

登壇されたのは中川さんのほかにコラムニストの吉田潮さん(『幸せな離婚―自由に生きるって気持ちいい!』ほか)、『電通とFIFA サッカーに群がる男たち (光文社新書)』のノンフィクション作家、田崎健太さん。進行役がイケダオソトさんだった。イベントのタイトルは「「コラム・エッセイの書き方講座&雑文執筆依頼を受ける方法」。

まず吉田さんのペンネームの由来に失礼ながら笑ってしまった。お名前やテレビ評論をされていることは存じ上げていたが、ご本人もあんなに面白い(失礼)な方だとは。かっこよかった。

中川さんは博報堂を辞めた後に、TV Bros.の仕事を得たエピソードのほか、いくつかの連載の原稿料についてもぶっちゃけ。さすがにこのあたりは書けない。
また某新聞の記者にお願いをして、「新聞の記事の書き方」を習ったという話を披露された。いわく、「冒頭(リード)に『この記事で何を言うかをすべて書け。記事全体は逆三角形になるように。中身では言いたいこと・テーマにつながる3つの証拠を入れて(このあたりうろ覚え)、最後にホロリとさせる内容を書け」と習って、驚いたとか。

新聞社に居た自分としてはごく自然なことだったが、たしかにこのあたりの感覚はWebとはまったく違っている。新聞は紙幅に制限があるため「削られる」ことを前提に書く。そして削るのは筆者本人ではなく、デスクや整理部(編成部)の担当者でもあり、また締め切りまで猶予がないことが多いため、文章の最後のほうを自動的に削れる(落とせる)ようにしておいたほうがよいとされる。つまり「最後に重要なことを書いてたのに!」というのは通用しないのだ。
この点、中川さんがイベント終盤で、Webでいいこととして文字制限がないことを挙げていたのは興味深い。好きなだけ書けるうえ、(説明不足による)ツッコミどころを減らすことができるというから、たしかにそれは間違いない。

編集者との付き合いについても話は及んだ。「編集者というものは王様になりたがる。人をこきつかいたがるものだから、自我を出さないことが(ライターとして仕事をもらううえで)重要」とのことだった。このあたりは編集者-ライターの関係に限った話ではないだろうが、納得できる話だ。イケダさんは「苦労とギャラは関係ない(比例しない)」と指摘。体を張った仕事も多く、さぞ大変なのだろうと想像された。

昨今、出版不況などといわれるが、「出版以外にも書く仕事は増えている」という話も出た。その一例が企業のオウンドメディアだ。「だから電通、博報堂、あとADKと付き合っておけ(仕事がもらえるから)」という中川さん。驚きだったのは、中川さんが「自分の名前がクレジットされる仕事は、全体の8%程度」と言ったことだ。8%だけでも相当な量と質だと思っていたので、あとの92%を思うとそらおそろしい。

元小学館の社員である田崎さんは、これまで複数の版元から書籍を出しているが、小学館からは出していないとのこと。田崎さんほどのチカラや実績があっても……なかなか難しい業界でもあるのだ。
やりにくい編集者の一例として「自分のほうが文章がうまいと思っている編集者」が挙げられた。ただ中にはうまい編集者もいるし、ライターの持ち味を生かすためにあえて赤を入れない編集者もいるとのこと。このあたりは自分も心がけていることなのでとても納得。さらに、厳しい指摘をしてくる編集者の意見には、そのときは反発心も芽生えるが、ちゃんとみてくれている分、正しいことが多かったという。書いた後しばらくたって読み返してみると、「直された文章のほうがたしかによかった(笑)」となるそうだ(ただいい編集者も異動してしまうという事実には嘆きの声が)。

最近の書籍は内容が薄いという嘆きの声もあがった。いわく「30枚でいいものを200枚にしたり」しているという。比喩でもあろうが、要はそれだけ薄いということだ。新書が多いのも、単行本を出せる筆者がいないのか、そこまで覚悟して筆者と付き合える版元なり編集者がいないのか……。誰が、どこが、ということではないが「労力を惜しんで作ろうとしてしまっている」ことは否めないだろう。

また某Webメディアの取材は10分で席をたったというエピソードも披露された。最近、あらたに独自コンテンツをつくるようになったWebサイトもあるが、そういう会社の担当者はコンテンツへの愛がなく、腰がひけているという。あるWebサイトの担当者など「責任をとらないですむようにすることしか考えていなかった」と厳しく批判されていた。
これはざっくり言ってWebメディアに強い傾向だと思うので反省しなければいけない。効率を求める先に生まれるものもあろうが、紙で活躍している筆者は効率だけを求めていないし、売れること、数字ばかりを追い求めているわけでもない。そんな安易な作り方、向き合い方をしていて面白いコンテンツなど生まれるわけがないのだ。
たとえば取材相手の近著を読んでいかないなんてありえないだろう。田崎さんは、取材相手の書籍は基本的にすべて読む、少なくとも3冊は読んで行くようにするが、まったく読まずに取材に来る人もいるという。これは驚きだ。

会場にはコラムやエッセイを書けるようになりたい(つまりはバイネームでの原稿執筆依頼を指名されるようになりたい)ライターが多数訪れていたが、イベント登壇者からは「紙のマナーを守っていればWebでも食っていける」という金言がもらえた。

このほかにも面白い話は(新潮は校閲がすごいとか)たくさんあったのだが、すべては書けないのでこのくらいで。冒頭に出た「高木美穂さんがすごい」という話、「鳩山邦夫さんと同じだ」という点についてはちょっと笑った。

来場者と気さくに名刺交換したり意見交換したりしてくださった登壇者4名の皆さん。ぜひ一緒にお仕事をしたいと思った。