2015年6月7日日曜日

「活躍したいなら越境を。10年間何かをやり続けて人脈と知識で世界を広げよう」ーー【対談】ムラカミカイエ×軍地彩弓

軍地彩弓さんとムラカミカイエさんの対談をクリーク・アンド・リバーの企画「東京会談」で拝聴した。テーマは「ファッションとテクノロジーの未来」だ。前回、1月に軍地さんと千原徹也さんの対談が面白かったので期待して行ったが、今回も示唆に富む内容だった。





「テクノロジーの進化によりファッション業界で今起ころうとしていること」


ファッション業界の急速なシュリンクについて、ムラカミカイエ氏は「自己表現の手段だったファッションがSNSにとってかわられた」、軍地彩弓氏は「これまで(洋服が)棚を埋めるために作り続けられてきたが、(アパレル業界が)変わらなければいけないことを自覚する時期にある。2015年はターニングポイント」と述べた。

テクノロジーがテーマだけにオムニチャンネル化の話も。オムニチャンネル化が進んでも重要な残る仕事として軍地氏は「接客」と述べ、ムラカミ氏は「コンピュータで代替できる仕事はなくなる。その意味では“寿司屋”のような複合型の仕事が生き残る」とした。いわく、市場で魚を目利きして、仕込みをし、調理をし、店舗で心地よい空間をつくり、商品を提供する……。そうした複合型の仕事はコンピュータではできないとのことで、納得だ。

両氏はまた、「PRの仕事も変わる」として、「ただ洋服を貸すだけではダメで、どういうメディアにどうやって出して、どれだけの価値が生まれたのか、数字を出せること。メディアプランを考えて数値を報告できることが求められる」と説明した。

洋服が売れないと言われているが、軍地氏はガウチョパンツが流行したことに触れ、GUでは100万本売れたという話を披露。余談としてテレビでは「ヒルナンデス!」に出ると売れるらしいと述べた。その上で、「ガウチョパンツを出せたメーカー、出せてないメーカーがある」点を指摘、「情報収集の差」を挙げた。

軍地氏はまた、情報収集の手段として有効なものとして、昔は雑誌だったが今はNaverまとめが有用といい、TVは40代、50代までのリーチに向いていると話した。「そこへの起点が、昔は雑誌だったが、今はインスタやWEARなどのソーシャルになっている」と解説。「売れない売れないといわれているが、売れるものは売れる。テクノロジーが間に入っている」と分析した。

デジタル時代だからこそアナログを
「マルチ(な活躍)は結果論」


軍地氏は、テクノロジー全盛の時代だからこそ「アナログなことをまずやるようになった」として事例を説明。2年前にレスポートサックからの依頼を受け、インフルエンサー50人を集めてイベントをやったという。当時はインスタグラマーが今ほど注目されていなかったため、ツイッターをやっている人も含めて実施したとのこと。ひと昔前なら50人規模のイベントでは影響がタカがしれていたが、このイベントについてはすごく拡散したといい、「ネット上で何かをやろうとするのではなく、場所をメディア化すること」と解説。「場メディア」という言葉を紹介した。

人材育成、キャリアについての話では、ムラカミ氏は自社スタッフに3つのことを推奨しているといい、それは
・ 歴史から学ぶ(物事は変化するということが分かる)
・ 経済の流れをみる(どこにお金がいくかが分かる)
・ 最新のテクノロジーに耳を傾ける
だという。
さらに「軍地さんは時代を編集し、自分は時代をデザインしている。活躍している人に共通している点=越境している。そういう人は変化に強い」と述べた。

軍地氏は「若い人に『軍地さんみたいにマルチに活躍できるようになりたい』と言われるが、『マルチは結果論』。自分は編集バカ一代で、ファッションばかりやってきた。
自分がやっていることは2つあって、「人の話を聞く」と「新しいことを取り入れる」ことだという。そして「10年何かをやってきた人なら、あとはそれを展開するのは人脈と知識。意外と新たなことをやろうとしない人が多い。枠を超えたもの勝ち」と呼びかけた。

ムラカミ氏が「ファッション=モノではない。コトだ」として、「アパレルとファッションは違う」と述べると、軍地氏も「アパレルやめたほうがいい」と断言。ここでいうアパレルは構造としてのファッション(ビジネス)のことで、「データでものをつくるより人のマインドに合わせてつくること」と話した。これからのモノづくりについて、「世の中をちゃんと見ながら愚直にきちんと作ることが大事」として、「クリエイティブ、エシカル、クオリティ」を挙げた。「ファッションの人はファッションの中でしか物事を考えていない」と指摘、たとえばSPAのショップで「陳列すべきアイテムが多数あって、コーディネートが見せられない」という悩みについては、サイネージやプッシュ機能(レコメンデーション)などテクノロジーによって解決できるのではと述べた。

最後に、ファッション業界でキャリアアップしたい人へのアドバイスとして軍地氏は「好きなことをやれ」と述べた。ムラカミ氏は「ファッションのどこが好きなのかをしっかり考えるといい」と話した。

このほかムラカミ氏が、スニーカーとヒールの話(若い女性が平日と週末に着用するアイテムが入れ替わった) スタートアップで成功するための3つのH(Hacker、Hustler、Hipster)、「年後半にはECの会社が実店舗をつくる流れができる」との予測などについて話した。


以上、かなりざっくり、はしょってまとめたが、ファッション業界にどっぷり浸かっているわけではない自分にとっても、参考になる視点が得られた、短いながらいい対談だった。