2014年7月25日金曜日

言葉の通じない国で2年収監されたら……壮絶すぎる実話の映画化「マルティニークからの祈り」を観て

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コロンブスが「世界で最も美しい場所」と呼んだ場所を知っているだろうか。

ベネズエラ沖のカリブ海に浮かぶ小島・マルティニーク島だ。

南米のギアナと同じフランスの海外県で、広さは1100平方km程度。ちょうど香港くらいの大きさで(日本で一番小さいのが1877平方kmの香川県)、人口は40万人程度。小泉八雲やゴーギャンも滞在したことがあるという。観光局のウェブサイトをみると、自然が豊かでダイビングが楽しめ、ラムのおいしいリゾート地であることが分かる。

ある韓国人女性が、マルティニークの刑務所で1年を過ごし、その後9カ月も仮釈放という名の軟禁生活を余儀なくされた。この島に移送される前のパリでの3カ月を含めて「756日間」も苦しい生活を強いられたーーそんな実話をもとにした映画「マルティニークからの祈り」を試写で観た。




あらすじはこう。自動車整備工場を夫婦で営み、夫ジョンベ(コ・ス)、一人娘ヘリン(カン・ジウ)と3人で慎ましやかに暮らしていたジョンヨン(チョン・ドヨン)だが、夫が保証人になっていた知人が自殺したことがきっかけで借金を背負うはめになり、家を追い出される。生活に困窮した彼女はやむなく、金の原石をフランスに運ぶ裏仕事を引き受ける。だが到着した空港で、それが実は麻薬であることが知らされる。麻薬に身に覚えはないがフランス語は話せず、また大使館も当てにならないなかで、先の見えない絶望的な日々をおくる……というものだ。


主演は、カンヌで主演女優賞を穫った(シークレット・サンシャイン)チョン・ドヨンで、さすがの演技力。子役のカン・ジウの演技もいい。「なぜだか理由は分からないが母親と会えずに寂しがる子ども」という状況を思うだけで涙腺が緩んでしまうが、劇中の

「ママ、あと何回寝たら戻ってくるの? ママの顔、忘れちゃいそうだよ」

というセリフは反則級のヤバさで涙がこらえられなかった。






ちょっとネタばれします。



自分がリアリティのある演出だなと思ったのは、ジョンヨンが最後、仁川空港に降り立ったときのヘリンの反応。「ママ!」と叫びながら走り出してスローモーション……みたいな、どこかの陽気な国ならありそうな演出ではなく、彼女は母の姿を見ても照れたのか、父の後ろに隠れていた。今思えばとりたてて気の利いた演出というわけではないものの、4歳から6歳までの約2年間、母と離れて過ごした女の子なら、ああいう反応をするだろうなぁとしみじみと思わされた。




いい映画だと思うので、”敢えて”気になった点も書いておく。

壮絶な実話がもとになっていることや、チョン・ドヨンの演技などはとてもよかったのだけれど、とても濃い2年間を2時間にまとめたためか、事実の説明を受けたものの悲壮さがあまり伝わってこなかった。いや、伝わってきたのだが、「もっと来いよ!」と思ってしまった。一人で過ごす時間の長さ、その過酷さ、辛さがもっと感じられてもよかった。フランス語はともかく英語が分かれば何とかなったかもしれないのに、英語すらできないおばちゃんがパリで捕まったら、ビビり具合はもう相当だろう。それに、収監された刑務所内の環境は劣悪ではあったが、男性刑務所の内部が描かれた映画やドラマをたくさん観ているからか、「こんなもんやないだろう」と(収監されたこともないのに)思ってしまった。

もしかしたら、「英語すらできないんだからしゃーないやろ」という気持ちがあって、同情できなかったのかもしれない。



でもチョン・ドヨンとカン・ジウの演技が観られたこと、こういう怖い実話があったのだということを知れたこと(あとトマトの唄を聴けたこと)だけでも、観る価値はあると思う。