2024年6月10日月曜日

『小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか』を読んだ理由は、業務で新しい仕組み化に取り組んでいるから

『小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか』

小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか』(小川実著、アスコム)読了。仕事であらためて新しい”仕組み化”に取り組んでいるので読んでみました。

本書は基本的にごく小さな(それこそ社員10人規模の)会社の”社長”向け。社長でもない自分にドンピシャというわけではなく、すごく大きな発見があったわけではありません。

しかし、チームでものごとを進める上で重要なこと、リーダーシップをどう発揮するか、人に任せ、人を巻き込んで業務を遂行し、成果につなげるにはどうすればいいか――といったことを考えたとき、原則・基本ともいえる部分での気づきがいろいろとあったので、まとめておきたいと思います。

いわゆる”仕組み化”をいきなり考えない

タイトルにもある「仕組み化」を考える時、どうしても、to doを洗い出してルーティーン化するといったような”作業の効率化”をイメージしがちです。

ただ、本書は「それは最後」と位置付けています。

冒頭、経営の仕組みについて下図のようなピラミッドを載せて整理しています。まず、土台に「成長の仕組み」(ビジョン、経営計画、人事評価)があり、その上に「事業の仕組み」(ビジネスモデル、商品・サービス開発)があり、頂点に(その後に)「作業の仕組み」(管理、効率化、標準化)があるという形です。

当然、土台である「成長の仕組み」を最初につくるべきです。それから、事業の仕組みをつくって、最後に「作業の仕組み」に取り組むべきです。

にもかかわらず、「仕組み化」というと、冒頭に述べたように、「作業の仕組み」にまず目が向きがち。そこからまず見つめなおす必要がありそうです。

本書が指摘する経営の仕組みのピラミッド

そして、会社を成長をさせるにあたり大切なのが、規模の拡大を目指す「レバレッジ経営」をめざすのか、個人の能力の範囲で事業を維持する「エキスパート経営」を目指すのかはっきりさせることだと説きます。

実際には、多くの会社・社長がここを曖昧なままにしていて、「レバレッジ経営をしなければいけないのに、エキスパート経営をやっている」といいます。だから仕組み化がやりきれないのだそう。

そして、「仕組み化」を進める上でまずすべきことは、社長が目指す「理想の会社の言語化」。その次に、その理想を実現するために、「レバレッジ経営かエキスパート経営か」を考える。その上で、レバレッジ経営を行う(大きな成長を実現する)ために、「具体的な仕組み化」を進めるという流れです。

本書は冒頭で述べたように小さな会社の社長向けに書かれていますが、著者は、小さな会社(の成長)に必要なことを、こう言い切ります(とても納得しました)。

「まず今いる人をやる気にさせ、辞めずに育ってくれるようにすること」(p54)

そして、仕組みの土台となる「自立した人材の育成」のために必要なのが、まず「ビジョンを言語化する」ことであり、その次に「中期経営計画」をたて、最後に「専門家にアウトソーシングして評価制度・賃金制度」をつくることだといいます(p61)。

人材は3種に分けられる

仕組み化の土台としてまず目指すべきなのは、「自立した人材を育てる」こと。そう説く著者が考える「人材」は、大別して3種類あるそうです。

「0人材」……1人分の仕事がまだできない。たいていの新入社員
「1人材」……1人分の成果を出せる人材。ただ優秀な1人材の集団になっても、エキスパート経営を目指すならいいが、会社の規模は拡大しない
「2人材」……2人以上の成果を出せるレバレッジ経営に欠かせない存在。幹部やリーダーのポジションを任せられる。

この「2人材」が次の「1人材」を育てられるようになると「組織は自立」し、社長が現場を離れて社長業に集中できるようになり、会社を次の成長ステップに進められるわけです。

社員が成長できる環境づくりに必要なこと

そして、社員が成長できる環境にするために必要なことが「評価制度」であり、「賃金制度」だといいます(p69)。

そもそもなぜ人がなかなか育たないのか。これについて著者は、最大の原因として、「社員が何をすればいいのか、どういうスキルを身につければいいのか、会社がどこをめざしているのか、分からないこと」といいます。

となれば、逆に何をやればいいのか、具体的な行動レベルまで明文化すればいいということになります。

「社員でも売れる確率が上がるようにする簡単な方法は、売るためにやっている社長の行動を分析して、明文化すること」(p83)

そうした状態にするために「評価制度」が必要なのはなぜか。

それは、評価制度をつくるということが、「これをやれば成果につながる」を言語化することにほかならないからです。

ビジョンをマネジメントする方法 「やらされ感」ではなく……

ビジョンや計画などをつくっても、それを行動に落とし込んで遂行するのは、社長ではなく社員です。それを踏まえて著者は、(ライザップのような)パーソナルトレーニングジムの例を挙げ、「記録・報告・巻き込み」が大切だと話します(p127)。

パーソナルトレーニングでは運動量や食事メニューなどを記録して報告しますが、ここで重要なのは、プロセスが見える化されていることだといいます。「変化の実感を得られて取り組んでいることの意味を見出しモチベーションがあがる」というわけです。

これと同じように、中期経営計画をつくったら、発表会を開くことで、記録、報告、巻き込みを図ることができるといいます(p128)。

ただ、「社長・経営陣が決めたから」と何かを語って押し付けるだけでは、社員はついてきません。そうならないようにするためのポイントとして、著者が挙げているのは「納得感」です。

納得感を引き出すために、「毎回必ずビジョンを確認して、ビジョンと紐づけて数字の話をすること」が必要だといいます。さらに、「また『この話か』と思われたとしても、『何のために数字を追いかけているか』を外してはいけません」(p131)と付け加えます。

たしかに、「本当に大切なことは繰り返し発信しなければいけない」とは、一般によく言われることです。むしろ(逆に)、「社長が毎回話しているってことは、大切なことなんだろうな」と受け止める社員もいるでしょう(し、それでいいのでしょう)。

自立した社員が育たない理由

著者は、自立した社員がなかなか育たない原因として、「プロセスへの関与の不足と納得感のギャップ」(p157)を挙げています。

これはどういうことでしょうか。

既にこれまでに経験・成功体験があり、仕事ができる社長・上司がイメージできるものと、経験がない(若手)社員のそれとは、違います。だから「納得感のギャップ」が必ず生まれてしまう。成功体験がない若手社員は、(たてたプランによって成功につながるという)プロセスが見えないわけです。

それではどうすればいいのか。本書では、経験と成功体験がある社長(上司)の頭の中から、あらゆる役に立つことを取り出して言語化し、仕組みに組み込むことが勧められています。これによって、プロセスへの適切な関与を促すということなのでしょう。

そして、こうした施策が適切かどうかを図るのが、評価の仕組み「成長考課制度」です。

評価の仕組みを適切に設計することは、「誰に何ができてほしいかを細かく表現していく」ことであり、「ビジョンを実現する人材像を明確に」することだと言います(p185)。

この「成長考課制度」の中身は、大きく分けて3種類(業績考課、行動考課、情意考課)あるそうです。その具体的な事例は本書を見ていただくとして、制度をつくる上でのポイントは2つあるといいます。

それは、「社員それぞれのミッションを明確にする」ことと「処遇の基準を明確にする」だそうです。

この2つを満たすと、それぞれの社員のめざすべきところがはっきりするため、社員の成長スピードは格段にアップするといいます。

そして著者は、こうも指摘します。

「育てる側に具体的な育成イメージがなければ、期待しているだけでは人は育たない」(p220)

たしかに、経験と成功体験のある社長(や上司)は、「自分(たち)ができたのだから、若手も(これくらいは)できるはず」「すべて言わなくても、考えてやれるはず」と考えがちです。この考え方、姿勢が正しいのか間違っているのかは分かりませんが、少なくとも、現代にはあっていないのだろうなとは思います。

(しっかり言葉にしないと伝わらない、「言ってもらわなきゃ分からない」という時代なのではないかなと思いました)

全体を通しての感想

このブログ記事の冒頭で、本書を読んだ理由について、仕事で「仕組み化」に取り組んでいるからだと書きました。

実際のところ、自分なりにその(仕組み化の)過程において、「なぜそれをすべきか」「仕組み化によってどんな状態を目指すのか」といったこともしっかり考えているつもりですし、また自分が所属している会社が、あらゆることの「仕組み化」や「工程やto doの分解」に長けているということもあって、本書で述べられていることの大筋の部分で、意外性や大きな発見と呼べるものはありませんでした。

また、そもそも自分は別に社長ではないですし、本書で想定されているのとはちょっと違う規模感の会社にいるということもあり、内容がドンピシャということもありません。

しかし、こうした”個別の事情の違い”を差し引いて考え、比べたとき、本書には、「忘れられがちだけど大切な原則」「分かってはいるつもりだけど実践できていない考え方」というものがしっかりとまとめられているなと思いました。あらためての気づきがあり、いろいろと整理できてよかったなと思います。

多くの場合、上司やリーダーの頭の中には、「なぜこれをやるのか」「この先どういう将来を実現したいのか」ということが、それなりにクリアなイメージとしてあり、その重要性を認識している。

だからといって、一緒に取り組む(特に若い)メンバーの頭と心の中に、同じ濃度と熱意であるわけではない。

こうした(当たり前だけど忘れがちな)ことをあらためて強く認識して、メンバーに伝えていかなければいけないと思い直しました。

自分は社長ではないですが、経験者として上司・先輩として、ビジョンや将来、目指す方向性を口に出し続け、当事者意識を広げる努力をし続けなければいけない。それこそ「最初に言ったからそれでOK」「一度いえば分かるだろう」ではいけないんだなと。


もしもこの本を読もうとしているのが、タイトルどおりに小さな会社を率いている社長であって、「大きく成長させたいのだけれど何をしていいか分からない」「いろいろと取り組んできたけどうまくいってない」のなら、きっと参考になるだろうと思いました。

『小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれいないのか』