2024年2月4日日曜日

『元カレごはん埋葬委員会』限界まで怒りもせずに許すなんて

 


天狼院書店の店長をされていた時から注目していた作家・川代紗生さんの『元カレごはん埋葬委員会』(サンマーク出版)を読了。読み始めてすぐ、「ドラマにしたら桃子、店長、黒田は誰がやるといいだろう」とか想像するのが楽しくなった(んだけど、もう舞台になっている。業界人の目を付けるスピードはやっ)。日ごろはチェーンのカフェしか使わないという人でも、こんな喫茶店のような場所が欲しくなるんじゃないだろうか。

派手さはないが実直ないい主人公

これで喫茶「雨宿り」に舞い込んでくる出来事が殺人事件ならミステリなんだけど、そうではなくて(そういう埋葬ではなくて)、誰かが誰かを思った(思われなかった)結果の、ケリをつけて生きていくための、くるおしくも清々しい儀式の話。

タイトルには「元カレ」とありますが、恋愛の、失恋の話だけではありません。

舞台設定も登場人物もとてもよくて、小説だけに「おあつらえ向きだなぁ」と思った瞬間、「いや、この主人公・桃子だからこそ、こういう場を見つけられたんじゃないかな」と思い直した。

桃子のように、他人の気持ちや思いを大切にしようとする姿勢を持った、まっすぐな人だからこそ、店長や黒田のような人物が支えてくれるのだし、毎回の登場人物たちが頼りにして、金曜をともに過ごすことでふっきって(いい思い出にして)また歩みだすんだよなと。派手さはない、実直型だけど、いい主人公だなと。

全8話のなかで特にいいなと思ったのは、黒田の話の回。昔の親の教育方針について、被害者である息子の黒田が親をフォローした際に、店長が言った

「他人を許すなんて、限界まで怒ったあとですることだろ」

という言葉です。

あぁ、なるほどなぁと思わされました。

自分が何かをされたとき、怒ったつもりであっても”限界まで”怒れているのか。こぶしを挙げる前に「おろした後にどうするか」を考えていないか。

そんな怒り方で、そのときに芽生えた感情や気持ちが成仏できるのか?

……そんなの、できるはずがない。

その気持ちは単に行き場を失い、発散されることなく自分の中にとどまってしまう。いろいろと自分に言い訳をし、時間の経過に助けを乞うて、なんとなくうやむやにして、ストレスの素にしてしまうだけではないか。

ちゃんと”身を任せた”と言える怒り方でないと、怒ったとはいえない。

むしろ、そんな怒り方で済ませる相手は、自分にとって大切でもなんでもないのではないか。

逆にいえば、大切な人であればあるほど、しっかり怒るべきではないか。

ストレスの解消のため、ひとときの「スッキリ」を得るためではなく、大切な人との大切な関係をより大切なものにするために。大切な人との間に生まれた自分の気持ちに向き合うために。

怒りもしないでその人を許してしまうのなんて、別に寛大で望ましい態度でもなんでもないのかもしれない。その人とちゃんと向き合っていないだけだ。

そして、それに気づいてしまったら、今度は怒れない自分を許せなくなりそうな気がする。

……と、そんなことを考えました(ただ言うのは易いですが、実践は難しそうです)。

あと気になったのは、しおりちゃんが気になってる男の子から恋愛相談をされたときの話です。「気になっている人いるんだよね」という相談してくる男の子の発言の裏側にある意味を知り、「(すべてではなくても)結構そういうことはあるのかもなあ」と思いました。

それと、自分も鶏肉は肉定食で出すのは反対派です。