2024年1月4日木曜日

『イーロン・マスク』正月に一気読み。衝突のないヌルい現場から新しいモノは生まれない

 

イーロン・マスク


昨年発売されて話題になっていたイーロン・マスクの公式伝記上下巻を正月三が日で一気に読みました。各450ページくらいありましたが、ほぼ2日で読み切りました。テスラやスペースXについては何となく、Twitterについてもニュースや報道などから彼がやったことを知っていたつもりでしたが、だからこそ「実は裏側でそういうことがあったのか……」「イーロン・マスクが突き抜けた人物だとはなんとなく知っていたが、ここまでだったか……」と知られて面白かったです。

「アルゴリズム」の5つの戒律は多くの企業が参考にしてもいい

とにかく彼の突き抜けぶりはすさまじく、多くの人が一緒に働けずに去っていくのは分かる気がしました。普通なら(というか彼以外なら)あり得ないやり方とスピード感で物事を実現させていく。現場に無茶を求めるが、口を出すだけではなく、自分も現場に入り、一緒に考え、床に寝て、いろいろなことを成し遂げていく。現場責任者ですら(だからこそ)「難しい・できない」と思うようなことを、ゼロベースで考え出してやり方を一緒に見つけて、実現させるわけです。言うだけ番長の多い会社という組織において、ある意味参考にすべきなのかもしれません。

とくにTwitterのサーバーを移転させるくだりなどは感心しました。業者に頼めば費用の時間も相当かかるところを、すぐに行ってみて小売店で買える材料・道具をもとに搬出し、運送業者の地元でサクッと見つけてしまい、当初の見積もりとはくらべものにならないくらい安く、早く済ませてしまっている。

あと参考になったのは彼が大切にしている「アルゴリズム」という5つの戒律です。「要件はすべて疑え」「部品や肯定派できる限り減らせ」「シンプルに、最適にしろ」「サイクルタイムを短くしろ」「自動化しろ」というもの(本書では約1ページ費やしてもっと詳しく書かれている)。これは多くの会社が(現場が)参考にできる戒律なのではないかなと思いました。世の中、無駄が多すぎる。

とはいえ、これもとてもシンプルなルールにすぎず、大切なのは、それを実現する際のやりきる気持ちなのだろうなと思います。仕事を進めていて、何かが思い通りに進まなかった時、誰かに反対されたとき、「ダメと言われてるからダメなんです」「ダメかどうか疑ったこともないです」「反対されないように無難に」と考える人たちだけが、なんとなく、つつがなく働いているような、衝突なんてないような現場から、新しいものや良いものが生まれたり、従来のそれを凌駕するスピードに達したりなんてできないでしょう。

ただし、それぞれが思いつくままにモノを言い、行動しているようでは、いたずらに衝突が生まれるだけ。困難に直面した時に、「そんなことはない、やるんだ」「やらなければクビだ」と言い切れる、彼のような権限を持ったビジョナリーが率いるからこそできるやり方なのかもしれません。

その結果、彼は自分の意に沿わないメンバーを次々とクビにしてしまうのですが、こういうやり方が認められる環境であることも、成長・成功のファクターと言えそうな気もします。部下の顔色を窺っているようでは、あのスピードは無理。解雇規制の厳しい日本のような国でも到底認められないでしょう。

しかし、だからこそアメリカ経済は成長(格差拡大)しているのだろうなとも思いました。

アメリカはすっかり憧れの国ではなくなりましたし、彼のような人と働きたいかと問われるとうなずきません。しかし、その生きざまには深く感心しましたし、こういう人物が生まれ(生まれは南アですが)、認められているからこそ、アメリカはなんとか今の地位を保てているのかもしれません。